98年頃から、「働く女性」をコンセプトとする企画書をつくり、各雑誌社に売り込んだ。しかし、「働く女性には興味がない」「広告媒体としていかがなものか」と色よい返事はなかった。TBSブリタニカに入社して4カ月後の6月、シンガポールの友人から「あの企画は、インターネットでやれば実現できるのではないか」と言われ、週末にシンガポールに飛んだ。
このように、思い立ったら、すぐに実行に移すのが彼女である。正社員にしてくれたのに申し訳なかったが、8カ月でTBSブリタニカを退社。それで99年11月、青木陽子さん、南ゆかりさんと3人でカフェグローブ・ドット・コムを設立して、代表取締役に就任。12月20日、働く女性向けの同名のウェブサイトをオープンした。「00年では駄目、99年中にオープンさせる」との強い思いがあったと述懐している。
00年、ネットバブルがはじけ、雨後のたけのこのように誕生したネットベンチャーは、うたかたの夢のように消えていったが、カフェグローブは生き残った。成功したIT業界の女性経営者として矢野さんは脚光を浴び、02年に日本能率協会マーケティング総合会議企画委員、04年にはデジタルハリウッド大学院客員教授に招聘された。私生活では、03年、41歳で再婚、07年に出産している。
従業員は50名を数え、出資者も増え、資本金は3億2046万円になった。目指したのは株式の上場である。「株式の公開によって社会的信用を得ることが、ウェブサイトの運営に大きなプラスになる」と考えていたからだ。しかし、結局、上場は叶わなかった。
ネットの世界は、常に構造的変化が起こる。中でも、個人で書き込みができるブログと、インターネットを通じて会員同士が交流できる「ソーシャル・ネットワーキング・サービス」(SNS)の台頭が、経営を大きく左右した。カフェグローブは利用者による書き込みが売りだったが、あっという間にブログに取って代わられた。最近では、つぶやき型のミニブログ、ツイッターが大流行している。
SNSビジネスではミクシィが06年9月に上場して、株式公開の口火を切った。08年12月にはグリーが上場。女性起業家、南場智子さんが率いた携帯電話向けのゲーム会社・DeNAもSNSに参入した。ユーザーに課金するビジネスモデルでグリーやDeNAは急成長を遂げ、我が世の春を謳歌した。SNSの延長線上にある友達や同僚、同級生、仲間たちとの交流に特化したフェイスブックも世界的に大きな広がりを見せた。