スズキは主力軽自動車「ワゴンR」を改良して発表した。ハイブリッド車(HV)のように減速する際に発電した電気を加速にも使うシステムを採用し、燃費を今までより8%改善した。ガソリン1リットルで32.4キロメートル走ることができ、ワゴンタイプの軽では最高水準になった。「消費費増税の影響は長引きそうだ。これからが正念場」。スズキの長尾正彦常務役員は2014年4~6月期の決算発表会見でこう語ったが、ダイハツ工業と軽自動車首位争いでしのぎを削るスズキにとってまさに正念場の秋に、主力車の燃費向上で競争に打ち勝つと意気込んでいる。
●国内新車販売の4割が軽に
消費増税の駆け込み需要で税金の安い軽自動車の普及率は、さらに上昇した。全国軽自動車協会連合会(全軽自協)の調査によれば、軽自動車の普及台数(100世帯当たり)の全国平均が13年12月末の時点で同年3月末の調査よりも1.1台増えて52.9台となり、過去最高を更新した。軽自動車人気を支えているのは地方だ。都道府県別では佐賀県が102.2台で2年連続の首位。2位は鳥取県の101.8台。佐賀県、鳥取県は1世帯当たり1台以上、保有している。3位は長野県の99.9台。一方、普及台数が最も低いのは東京都の11.5台だった。
13年の軽自動車の新車販売台数は211万台で過去最高となった。国内の新車販売の約4割を軽が占めたことになる。軽自動車市場は昨年、駆け込み需要の特需で活況に沸いた格好となったが、各社の懸念は駆け込み需要の反動減がいつから始まるかだった。
●7月に急ブレーキ
4月に消費税が上がった後も快走を続けてきた軽自動車だが、7月に急ブレーキがかかった。販売台数は7.1%減と13カ月ぶりに前年同月の実績を下回った。8月はマイナス幅が15.1%まで広がった。メーカー別の8月の実績は、惨たんたる結果だった。7月には前年同月比8.8%増だったスズキは3.3%減、ダイハツは18.3%減。三菱自動車は38.8%減と大きく落ち込んだ。
軽自動車は昨夏に各社が相次いで新車を投入して販売が増えた反動もあり、前年実績を大きく下回った。9月も前年割れになるとみられている。
軽自動車の販売にブレーキがかかったのは、消費増税前の駆け込み需要による受注残を食い潰したことによる。裏を返せば、消費増税後の本格的な競争に突入したということだ。落ち込みは長く続くだろう。
●ダブル増税パンチ
こう予想されている理由は、1989年4月に消費税が3%になった時の経験にある。88年の軽自動車の年間販売台数は駆け込み需要で前年より4.5%伸びたが、増税が実施された89年は3.1%の減。ただ、この時はバブル経済の真っただ中で落ち込み幅は小さかった。落ち込みが大きかったのは、97年4月に消費税が3%から5%へ引き上げられた時。駆け込み需要はなかったが、97年は5.2%減、98年は4.1%減と2年連続で減少した。
では、5%から8%に引き上げられた今回の消費増税後はどうなるのか。統計を見ると、2年前から軽自動車の特需が始まっていたことがわかる。12年は30.1%増、13年は6.7%増と2年連続で増加した。さらに15年4月以降に買う新車を対象に、軽自動車税は現行の1.5倍の1万800円と増税になる。消費税と軽自動車税の増税のダブルパンチで、軽自動車の販売の落ち込みは最低でも2年続くとの予想が業界内では広がっている。
市場が膨らんでいるときにはシェアが大きく変動することはないが、市場が縮むとシェアが劇的に変化する。14年1~8月累計新車販売台数のメーカー別シェアは「タント」のダイハツが30.4%、「ハスラー」のスズキが30.0%と拮抗。「N-BOX」のホンダが18.4%、「デイズ」の日産が11.3%と続く。
燃費性能のアップなど開発競争も熾烈化する中、今回の消費増税を乗り切ってシェアを伸ばすのはどこか。
(文=編集部)