LIXIL、伝統的日本企業に欧米流経営導入、なぜ“まれな”成功例に?海外事業急拡大
●洗浄便座メーカーの怠慢
前回連載で触れたように、外資系企業の経営経験が長かった筆者は、思わぬ経緯で日系企業トップに就くやいなや戦い始める前に放逐されてしまったわけだが、日米の企業文化の差をモノともせず輝かしい実績を上げているのが、藤森義明LIXIL社長だ。
日本を初めて訪れた旅行者からよく聞かれる感想が、「日本のトイレは~」というものだ。「あんな素晴らしい体験はなかった」と、例外なく激賞する。以前ではこのような感想を聞かされて、日本人の清潔へのこだわりに誇りを感じていた。しかし、十年来同じ感想を繰り返し聞くたびに、次第に不快に思うようになってきていた。それは、「この業界のリーディング・メーカーは、一体何をしているのだろう」ということだ。日本メーカーが生産・販売する洗浄便座の特性を整理すると、次のようになる。
(1)一つの商品が、多くのマーケットにまったく出回っていない。つまりそのマーケットでは新製品である。もしくは存在しているのに販売されていないので「未製品」というべきか。
(2)商品に対する限定されたモニタリングでは、素晴らしい評判である。
(3)価格帯が参入障壁とは思われない。少なくとも欧米では抵抗感のない商品として迎えられるだろう。ただし、都市による水道事情がある程度の障壁となる可能性もある。
(4)マーケット規模は無限であり、普及しているのは日本だけ。
こんな状況で、日本を訪れる観光客が十年一日のごとく「こんなものは母国では体験したことがない」と言い続けているのは、TOTO、INAX、そしてパナソニックなど、大手洗浄便座メーカー各社の罪悪ともいえるほどの怠慢だと感じてきた。
ところが、INAXを傘下に収めるLIXILグループが近年、海外進出を加速させている。同社の14年度の売上高予測は1兆7600億円であるが、海外売上高6500億円を目指している(同社中期経営計画よる)。12年度の海外売上高実績は2620億円なので、2年の間に2.5倍となる速度だ。実は14年度の海外売上高予測には、米国のトップ衛生陶器会社であるアメリカン・スタンダードなどいくつかの大型M&Aによる分として3250億円を見込んでいる。成長の時間を大胆に購入しているのだ。15年度には3兆円を目指しているグループ売上高のうち、1兆円を海外事業が占めると中計は掲げている。同社の場合、成長はまさに海外で加速するのだ。
●日本の大メーカーを振り回す、ウェルチの秘蔵っ子
このようにグローバルで大胆な戦略が展開されるようになったのは、藤森義明氏が11年に社長兼CEOに就任してからのことである。日商岩井(現・双日)から米カーネギーメロン大学に留学して経営修士号(MBA)を取得したのが1981年なので、筆者のそれより2年早い。帰国して96年にGEへ転職。2005年には日本GE会長に就任するが、25年間をGEで過ごした、いわゆる「外資族」といってよい。