深まるアマゾンvs.欧州の構図 文化保護や租税回避めぐる対立、妥協しないアマゾンの勝算
●ドイツ
次に、ドイツの事例をみてみよう。アマゾンのドイツ市場への参入は98年。13年の売り上げは105億ドルで、9つの物流センターを開設し、約9000人の従業員を抱えている。ドイツにおけるアマゾンの問題は、文化ではなく労働組合だ。もっとも、ドイツにおいて労働組合は伝統ある文化のようなものだ。
米国や日本で労働組合とは、企業側からはどちらかというと邪魔な存在だとみなされる傾向が強い。しかし、ドイツでは、戦後の復興や世界的景気低迷の中で自国経済が強いのは、経営陣と労働組合との「ソーシャル・パートナーシップ」にあると考える向きも多い。従業員代表者が経営上の重要な決定に参加することも多いし、取締役会のメンバーとなっている例も多い。労働組合は、経営者グループと同様に敬意をもって遇されるべきだと考えられている。
ドイツで一番最初に2カ所のアマゾン物流センターで400人ばかりの従業員がストライキをしたのは、より高い報酬を要求する目的もあったが、そもそもの問題は従業員が労働組合をつくり団体交渉をする権利を会社が認めなかったことにある。アマゾンのドイツの物流センターで働くフルタイム従業員約9000人のうち約2000人は、ドイツで2番目に大きい労働組合に属し、13年から時々ストライキを実行していた。だが、アマゾンは、労働組合と交渉の場につくことを拒否している。
「労働組合はドイツの文化であり、労働者と経営者の協力体制が産業界での特徴だ」とする従業員側に対してアマゾンは、「アマゾンの成功はネット小売業の急激な変化に適応する融通性にある。労働組合と交渉することにより物事が迅速に進まなくなるようなことがなかったから成長できたのだ」と反論している。アマゾンとしては、物流システムに支障を来さずに、物流センターを組合員の少ない地域や隣国に移すことができる。そのため労働組合も、そこまで追い込むことはしないようにしているというのが現状のようだ。
●イギリス
このほかの国として、イギリスでアマゾンが抱える問題はお金だ。英国市場への参入は98年、8つの物流センターを抱え、約7000人の従業員が働いている。アマゾンの同国における売り上げは13年に71億ドルだったにもかかわらず、700万ドルの税金しか払っていない。本社が税金の安いルクセンブルクに置かれているからだ。ヨーロッパのどの国からアマゾンに注文しても、ルクセンブルクの会社から購買したことになる。
イギリスは景気低迷が続く中、国家予算をまかなうために、節税を図ろうとする企業への締め付けを強化している。スターバックスやグーグルも、税率の低いオランダやアイルランドに本社を置いていると批判された。スターバックスは、税金逃れをしていると非難されることによるブランドイメージ低下を懸念してなのか、あまりに厳しく執拗な追及についに根負けして、14年内に本社をオランダのアムステルダムから英国のロンドンに移すことにしたと発表している。