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牧田幸裕「得点力を上げるための思考再構築」(11月14日)

ユニクロ柳井社長の非情さ、なぜ真っ当?事業の“ご臨終”=撤退基準明確化の重要性

文=牧田幸裕/信州大学学術研究院(社会科学系)准教授

 ところが、「この売り上げを何期連続確保できなければ撤退」「利益率がこの基準を満たさなくなったら撤退」など、製品・サービスを終える基準が明らかになっている企業はほとんどない。その結果、なんとなくダラダラと売れない製品・サービスが継続されてしまうのである。

 これは経営陣の怠慢だ。事業レベルでもそうだし、製品・サービスレベルでもそうだが、永遠には継続できない。ほとんどの製品・サービスは自分が携わっている間に終わりを迎える。だから、製品・サービスもご臨終の準備、心構えをしなければならないわけだ。

 しかし、ほとんどの経営陣は、新製品・新サービスを展開し、売り上げ拡大を目指すところにしか目がいかない。その結果、戦略立案担当者が撤退基準の話などしようものなら、「このようなハレの良き日に、ご臨終の話などするな」「お前は、売れなくなることを前提に、この製品(サービス)を検討してきたのか」などと、怒られることになるのである。

●売れない製品が山積みになるのを防ぐ

 かつて外資系戦略コンサルタントだった頃、製品・サービスの撤退を提言したところ、こういうシーンによく出くわした。撤退すべき製品やサービスの戦略立案担当者や製品開発担当者から、反論が出る。まず、その製品やサービスを上市するところから物語が始まる。多くの取引先に無理を言い、迷惑をかけ、自分の部下がどれだけ苦労して製品・サービスを立ち上げたかということを情感たっぷりに話してくれる。途中、感極まって、目頭にハンカチをやりながら、その製品・サービスに対する愛情を訴えかけてくるのである。

 その苦労を垣間見ている経営陣も、思わず情が移り、「まあ、ここまでがんばってきたんだ。まだがんばればなんとかなるかもしれない。もう少しだけやらせてみるか」という判断を下してしまいがちである。そして、担当者は号泣しながら「ありがとうございます。粉骨砕身の覚悟でがんばります」となる。

 感情的には理解できるが、ビジネスとしてはまったく理解できない。経営陣の責任は、このような現場の感情論を説得し、ビジネスの論理を現場に徹底させることのはずだ。だから、ここで情に流される経営陣は、経営陣失格である。社長や事業担当リーダーは、ここで防波堤にならなければならない。

 世の中に類似製品が溢れる中、製品やサービスの賞味期限は、どんどん短くなってきている。だから、ご臨終の話をしないと、売れない製品・サービスが山積みになってしまう。したがって、製品・サービスを上市する際には、社長や事業担当リーダーが率先して、必ず撤退基準を同時に定めることが必要になる。

牧田幸裕/信州大学大学院 経済・社会政策科学研究科 准教授

牧田幸裕/信州大学大学院 経済・社会政策科学研究科 准教授

京都大学経済学部卒業、京都大学大学院経済学研究科修了。ハーバード大学経営大学院エグゼクティブ・プログラム(GCPCL)修了。アクセンチュア戦略グループ、サイエント、ICGなど外資系企業のディレクター、ヴァイスプレジデントを歴任。2003年、日本IBM(旧IBMビジネスコンサルティングサービス)へ移籍。インダストリアル事業本部クライアント・パートナー。主にエレクトロニクス業界、消費財業界を担当。IBMでは4期連続最優秀インストラクター。2006年、信州大学大学院 経済・社会政策科学研究科助教授。2007年、信州大学大学院 経済・社会政策科学研究科准教授。2012年、青山学院大学大学院 国際マネジメント研究科 非常勤講師。2016年、長野市産業振興審議会 副会長。2018年7月より現職。
牧田 幸裕|note

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