●有給を取らせず、サービス残業を強制
2006年、契約更新されなかった福岡校の元講師が、不当な雇い止めだと河合塾を相手に提訴した。最高裁まで争う中で、福岡中央労働基準監督署は河合塾側に雇用形態の是正を指導。これと前後して、河合塾は講師に対し、雇用契約を結ぶ「講師職」か、従来通りの「委託」かを選択できる制度に変えるとして、各地で説明会を開き始めた。
ところが、この新制度も問題だらけだったと佐々木さんは言う。本部の理事らは自ら「雇用(講師職)と委託の勤務に差はない」「契約形態が違うだけ」と説明。ある幹部は「雇用であっても有給休暇は取らないでほしい」と話す一方、「講義前後の30分間は生徒指導上、教室でがんばってもらうのが当然」などと、サービス残業を正当化するような発言もした。
雇用契約を望んでいた佐々木さんだが、こうしたあいまいな状態では契約を結べないとして、幹部との面談があるたびに有給やサービス残業に関する発言の撤回と、就業規則の開示を求めた。しかし幹部は毎回、無視するか激怒してこれを拒んだという。
10年に労働組合「河合塾ユニオン」が結成され、佐々木さんが加入して書記長にも選ばれると、本部側からの圧力や攻撃はさらに熾烈になっていく。「あなたにやってもらう授業はない」「君は職場にいられなくなる」などの脅しが日常茶飯事となった。
●年間に100人の雇い止め
社会的にも偽装請負や非正規雇用の待遇が問題化し、12年8月から労働契約法が改正され、有期契約が通算5年を超えると無期契約に転換できるルールや、雇い止めを認めない場合の条件などが定められた。
しかし、河合塾ではこの法改正を名目に、3年契約の事務担当の専門職員らを「解雇しなければならなくなった」と、逆に雇い止めするケースが組合に相次いで報告されるようになった。12年度末に東京・新宿と千葉・松戸の2校で先行し、13年度末は全体数が100人以上にのぼったという。
この対応に悩む職員らがいると聞かされた佐々木さんは、法改正の内容を解説した厚生労働省のリーフレットをコピーして封筒に入れ、13年8月に東京・町田と横浜の施設内で職員ら3人に手渡した。生徒がいない場所で、休憩中を見計らって預けただけだという。しかし、これが後に問題となり、佐々木さんは本部から厳重注意を受けた。
さらに同年11月22日付で、翌年度の業務委託契約を締結しない方針を書面で通知された。その理由は、リーフレットの配布に加え、組合の機関紙に塾生の人数などを書いたことが「秘密保持義務に違反した」から、そして生徒との「トラブル」があったからだとしている。