通知後、契約上は14年の春期講習まで担当することになっていた佐々木さんだが、本部側から「あなたにやってもらう授業はない。もうパンフはできている」とされた。
組合は、佐々木さんに対するこの通知を撤回した上で、前年度と同様の契約締結、更新をするよう河合塾側に求めて、申し立てをしている。
●模試をめぐる不正行為
通知理由の3番目に挙げられた「トラブル」とは、河合塾の模擬試験をめぐる問題だ。高校受験を控えた中学生が河合塾の模試を受けると、一部の私立高校にその生徒の名前と成績が提供され、「入試で優遇される」慣例が国の通知に反してあったとして、組合が今年9月に記者会見を開いて明らかにした。
この「トラブル」発覚のきっかけは、模試の前日に問題の一部を生徒に解かせ、解説して解答まで渡していた英語担当の嘱託職員がいたから。佐々木さんは当時、この職員と同じ校舎で理科の講義を受け持っており、当事者の生徒らと「問題漏えい」についてやりとりをした。この際、河合塾側は佐々木さんが生徒を不安にさせるような発言をしたと指摘しているが、佐々木さんはむしろ不安をなだめようとしたのだと、主張が180度食い違う。
だが、いずれにしても模擬試験を通じたこの「合格確約制度」について佐々木さんは、「02年ごろから把握していたが、どう考えても不正行為だと思っていた。何も知らない受験生にとって、合格する権利を奪われ、不公平だ。自社模試の場合は問題漏洩などの恐れがあると危惧して何度も中止を訴えていたが、無視された。税制優遇された学校法人がやってよいことではない」と証言。ことは佐々木さん1人の雇用問題にとどまらず、予備校のあり方をも問う根深さを見せつつあるのだ。
河合塾側は「私立高校が自ら入試の出願・適用基準として、河合塾を含めた複数の塾や予備校の模試成績を採用しているだけ」だと説明し、事前に模試問題を解かせたのは「誤使用」にすぎなかったと準備書面で反論。その上で、佐々木さんの言動は塾側との信頼関係を崩壊させるもので、塾側は佐々木さんを「受託業務者としてふさわしくない」と判断して契約非締結を決めた通知を正当化する構えだ。
筆者の取材に対して河合塾側は「現在、労働委員会の場で双方の見解を述べています。今後も労働委員会の場で河合塾の見解を述べてまいります」とコメントした。佐々木さんの陳述に対する河合塾側の反対尋問は来年1月16日、公開の審問として開かれる。
(文=関口威人/ジャーナリスト)