しかし、KDDIが今回参入した格安スマホ向けの「独自サービス型SIM」の回線契約数は173万件で、全体の1.1%にすぎない。MM総研は「普及阻害要因の認知度の低さ、購入チャネルの少なさなどが改善されつつあり、今後は急速な普及が期待される」と分析している。
こうした中で、KDDIバリューの菱岡社長は前出の記者会見で、会社設立の動機とパートナー戦略の背景を次のように説明している。
「無線通信インフラを持たないさまざまな業種の企業から、自社固有サービスをスマホで提供したいとのニーズが高まってきた。このニーズにKDDIが応えるためには、KDDI自身がMVNO事業に参入する必要があった」
だが、本当の動機は公式発表とは若干異なるようだ。
auのMVNO接続料、すなわち再販回線卸売り料はドコモの約2倍といわれている。しかも、3G LTEの通信規格がドコモやソフトバンクと異なるため、大半の「SIMフリースマホ」が通話できないなどのデメリットも抱えている。したがって不便な上に高いau回線を利用しようというMVNOはなく、おのずとドコモ回線を選ぶ環境になっている。現在、au回線を利用しているMVNOは関西電力系の通信事業者ケイ・オプティコムだけ。ドコモ独占状態は必然といえる。MVNO経由で間接的にドコモの回線を利用するユーザが増えれば、数字上はドコモ契約者の増加につながり、さらにKDDIとしては今後急拡大が見込まれる格安スマホユーザを取り込めない結果になる。
●参入事業者同士の差別化に難
ドコモより高い接続料、独自通信規格のダブルデメリットを抱えたKDDIは、こうした不利な状況を認識してはいるものの、巨額投資が絡むだけにすぐに状況を変えられない。その窮余の一策として考え出したのがKDDIバリュー設立という搦め手の作戦だった。
すなわち、回線だけを卸売りするのではなく、回線、端末、サービスの一括提供方式でMVNO参入企業にau回線を卸売りしようというわけだ。そうすればダブルデメリットの敷居を下げることができるし、MVNO事業のインフラもノウハウもない企業も参入しやすくなる。