(「Thinkstock」より)
大手の経済メディアも、この引責辞任について奥歯にものが挟まった言い方をする。例えば、シャープの社長が片山幹雄氏(現・会長、54)から奥田隆司氏(58)に交代した件について記した記事を見てもそうだ。
毎日新聞(3月15日付東京版朝刊、経済面)は、「堺工場の投資総額は約4300億円。片山氏は14日の記者会見で『08年ごろまでは液晶テレビの拡大が売り上げ、利益の両面で貢献したが、結果的に堺工場の投資が財務を痛める結果になった』と大型投資が裏目に出たことを認めた」としながらも、「片山氏は新体制では『(奥田氏が)社内を担当、私は外部を担当する』と強調し、引責辞任との見方を退けたが、新社長が58歳で、54歳の片山氏が代表権のない会長に就くという異例の内容から見ても、今回の人事は多分に引責の意味が含まれる」と書いている。なんでこんな回りくどい言い方をするのか。引責辞任は引責辞任以外の何ものでもないはずだ。
「シャープ社長に奥田氏 片山氏、液晶不振で引責辞任」とはっきり書いたのは産経新聞(3月15日付朝刊)。東京新聞は「片山氏、業績不振で責任」と若干の触れているが、毎日の1面は「12人抜き 巨額赤字を受けて(経営陣を)刷新」、「選択と集中の挫折 町田・片山体制の10年 社長に奥田氏」(日経産業新聞)、「シャープも社長交代 電機軒並み」(朝日、1面)、「シャープ社長奥田氏 TV不振で経営陣刷新」(読売、1面)。液晶の一本やり経営からの脱却が急務と書くのも結構だが、どれもこれも全国紙は踏み込み不足である。
経営者は結果責任が問われる。結果が悪ければ、辞任してケジメをつける。これが引責辞任である。巨額な赤字を出したソニーのハワード・ストリンガー会長兼社長(70)、パナソニックの中村邦夫会長(72)と大坪文雄社長(66)も引責辞任である。だが、本人たちは引責辞任を口にしないし、メディアも引責辞任の言葉を避ける。広告のことばかり気にしているから、腰が引ける。
「引責辞任」と明言して辞めた唯一の経営者は、住友化学社長(当時)だった米倉弘昌氏(75)。この頃から、少し変な人だった(失礼)。09年3月期連結決算で巨額赤字に転落した責任を取って引責辞任した。その米倉氏も会長になって、第一線から完全に身を退いたわけではない。とうとう、財界総理と呼ばれる経団連会長に上り詰めた。