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LIXIL剛腕社長、積極M&Aで海外売上高ゼロから1兆円へ リーダー育成術にも注目

文=編集部
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 超ドメスティック(内需型)企業からグローバル企業へのシフトはいまだ途上――。建築材料・住宅設備機器業界最大手のLIXILグループ(旧住生活グループ)は、大変革が難航している。

 変革の推進役は、米ゼネラル・エレクトリック(GE)の上席副社長を務めたこともある藤森義明社長兼CEOだ。スピード経営を信条にしている藤森氏は、M&Aを果敢に繰り広げている。

 1月早々には、政府から東京電力の会長就任を打診されているという、フライング気味の報道が駆け巡った。就任するなら6月からだというが、原子力発電所事故の発生以前、東電は財界の頂点の1つだったわけで、トップに立てば異例ともいえる大出世だ。

 LIXILグループの業績が悪化しているところで、海外企業の買収を主導してきた藤森氏が東電の会長になった場合、リーダーが不在になる可能性がある。これを嫌気して、1月6日に株価は一時6%安と急落した。

 2月2日の決算会見(2014年4月~12月期連結決算)で去就を尋ねられた藤森氏は、「LIXILにずっといる」と明言した。市場からは「ここで藤森氏がいなくなれば、まさに敵前逃亡だ」との声が上がっていたため、そう言わざるを得なかったのかもしれない。

「3年で結果を出さなければ、5年やっても同じ」が藤森氏の持論だ。しかし、14年4月~12月期連結決算は、純利益が198億円と前年同期比で46%減少しており、通期(15年3月期)も下方修正している。

 変革は、道半ばだ。15年4月に海外の買収企業を含めた組織を再編し、「水回り」「住宅」「建材」「キッチン」の4社体制に移行する。それぞれのトップに責任を持たせることで「グローバルで迅速な意思決定をする」と、藤森氏は語る。

GEを経てLIXILグループトップに就いた藤森氏

 藤森氏は、11年8月1日に当時の住生活グループの取締役代表執行役社長兼CEOに就いた。「60歳は日本では還暦だが、英語ではリセットと言う。60歳を機に、リセットするならやはり日本人として日本企業を変えることにチャレンジすべきだと考えていた」と語る。

 藤森氏は東京大学工学部を卒業後、日商岩井(現双日)を経て、1986年に日本GEに入社した。01年から米GEの上席副社長、05年に日本GE会長に就き、08年より社長も兼務している。

 日本GEの会長だった当時、複数の日本企業から「社外取締役になってほしい」というオファーが寄せられた。住生活もそのうちの1社だったが、GEの規則で他社の取締役を兼務することはできなかった。すると、当時住生活の会長を務めていた潮田洋一郎氏から「勉強会を開きましょう」と誘われ、藤森氏はアドバイザーとして2年間、毎月の勉強会に参加した。

 潮田氏は、勉強会に毎回持ち込まれる藤森氏の手書き資料と助言に熱心に耳を傾け、経営に取り入れた。その後、LIXILグループはトステムやINAXなどの住設機器5社をLIXILに統合したが、これは藤森氏の「持ち株会社に複数の事業会社をぶらさげるより、ひとつにまとめたほうが経営効率がよい」という助言が、潮田氏の背中を押した結果だ。また、この統合によって藤森氏は潮田氏が本気で会社を変えようとしていることを感じた。

 藤森氏が信奉するGEのジャック・ウェルチ元会長が改革の権化のような人物だったように、トップに変革を起こす気持ちがない企業は面白くない。藤森氏は、日本の会社に行くなら一番変革を求めているところに行きたいと考えていた。

 一方、潮田氏は10年にシステムキッチンのサンウエーブ工業や、住宅建材などを扱う新日軽を買収した。M&Aに積極的に打って出た住生活の姿勢を、藤森氏は「魅力的な会社になってきましたね」と評価すると、潮田氏は「面白いと感じるなら、この会社を経営してみないか」と提案した。同社を「群を抜いて変革の意欲が高い」と感じていた藤森氏は、その要請を受け入れた。

海外売上高1兆円を目指すLIXILグループ

 11年4月、トステムやINAX、新日軽、サンウエーブ工業、東洋エクステリアという企業文化の異なる事業会社が、LIXILとしてひとつの組織になった。そして、同年8月に藤森氏を社長に迎え入れた同社は、16年3月期までに連結売上高3兆円という大きな目標を掲げている。

 ほぼゼロだった海外売上高を1兆円にまで引き上げてグローバルカンパニーに育て上げること。そのグローバルカンパニーの経営を任せられる人材を育ててバトンタッチすること。この2つが、潮田氏から藤森氏に与えられたミッションである。とはいえ、15年3月期の業績を下方修正しており、16年3月期の目標達成は難しくなった。

 社長に就いた藤森氏は、大型のM&Aで攻勢をかけた。藤森氏が就任前から手ほどきしていた案件を含め、海外のM&Aは6件だ(下記参照)。その6社を買収するために注ぎ込んだ金額は、合計2167億円(14年末時点)にも上り、売り上げは4152億円上乗せされた。

 アメリカンスタンダードの買収によって、北米での衛生陶器市場のシェアは21%になり、売上高ゼロの状態から一気にトップに立った。最大の案件は、ドイツの水洗金具メーカーであるグローエだ。同社の水洗金具は世界の高級ホテルで使われており、高いブランド力を誇っている。

 一方、国内のM&Aは株式交換方式が中心で4件、売上高は2537億円上乗せされた。

 海外の大型M&Aの際に問題になるのは「のれん」代だ。のれんとは、企業を買収する際に支払った金額と、被買収企業の資産の差額のことを指す。LIXILグループは日本政策投資銀行と共同出資した特別目的会社を通じて、グローエの株式を4109億円で取得した。今年1月、特別目的会社が発行済み株式総数の87.5%を取得し、同グループ傘下のLIXILは持ち分を56.25%に高めて関連会社とした。今後、同社は政投銀の持ち分を買い取り、グローエを16年3月期から連結子会社に組み入れる。最終的な買収金額はさらに膨らみ、のれん代がいくらになるかは未定としている。

【海外企業のM&A
実施時期/会社名/事業内容と地域/売上規模/投資金額/のれん代等

09年11月/ASAP/衛生陶器(アジア)/235億円/176億円/56億円
11年1月/上海美特/ビルサッシ(中国)/120億円/32億円/5億円
11年12月/ペルマ/ビルサッシ(グローバル)/1160億円/608億円/693億円
13年8月/ASB/水回り(北米)/820億円/305億円/364億円
13年10月/スターアルビルド/ビルサッシ(インド)/17億円/7億円/4億円
14年1月/グローエグループ/水回り(グローバル)/1800億円/1039億円/未定

※ASAPは「アメリカンスタンダード アジア・パシフィック部門」の略。上海美特は「上海美特カーテンウォール」の略。ペルマは「ペルマスティリーザ」の略。ASBは「アメリカンスタンダード ブランズ」の略。グローエに関しては政投銀の持ち分を買い取るので、投資金額はさらに増える

【日本企業のM&A】
実施時期/会社名/事業内容/売上規模/投資金額/のれん代等
10年4月/新日軽/住宅・ビル用サッシ/1100億円/0円/54億円
10年4月/サンウエーブ工業/キッチン/850億円/137億円/-61億円
11年8月/川島織物セルコン/カーテン等内装材/343億円/22億円+株式交換/17億円
11年10月/ハイビック/木材の買い付け/244億円/株式交換/14億円

【日本企業との資本・業務提携】
実施時期/会社名/事業内容/投資金額/評価差額
10年12月/レオパレス21/賃貸大手リフォーム/18億円/63億円
13年9月/エディオン/家電量販店のリフォーム部門/60億円/12億円
13年10月/シャープ/家電と建材を融合させた新製品開発/50億円/6億円

※評価差額とは、投資した金額と決算時点での株価との差。また、資料はいずれもLIXILグループの当初の15年3月期業績予想(通期)に基づく

藤森氏のリーダー育成術とは

 LIXILグループは、中期の経営計画で「住生活産業におけるグローバルリーダーになる」というビジョンを掲げている。ただ、藤森氏はそれ以上に、ビジョンに向かって経営の舵取りができるリーダー育成が重要だと考えているようだ。

 藤森氏はウェルチ氏に心酔していると前述したが、ウェルチ氏の前任であるレグ・ジョーンズ氏は「私のGEへの最大の功績は、ウェルチ氏を後継者に選んだことだ」と語っている。

 藤森氏は、LIXILグループの社長として次世代のリーダーを育てることを自身に課した。50代になってから組織を任されても、リーダーになどなれるわけがない。20代後半から30代の若い人材に大きなチャンスを与えて、次世代のリーダーを育てるという方針だ。

 ウェルチ氏のリーダー育成術は、「これは、と思える人材には仕事の達成感を持たせてはいけない」というものだ。人は達成感が生まれた途端に慢心して下り坂になる。それを防ぐためには、仕事が終わりかけて達成感が得られそうになった瞬間に、別の大きな仕事を与えるのだ。「こんな難しい仕事ができるだろうか」と不安になりながらも、恐れずに立ち向かうことを覚えさせる。そういった試練の連続で人を鍛えるのがウェルチ流だ。

 また、ウェルチ氏は基本的に性悪説をとっている。藤森氏は「ウェルチ氏(の性悪説)に近いやり方で集団をまとめようとするなら、怠惰な方向に行かせないようにすることだ」と語る。次世代のリーダーを育てるために、若手に2倍、3倍のチャレンジを与え続けることにした。

 部下に弱みを見せないといわれる藤森氏の経営手法は、徹頭徹尾冷たくドライなものだ。また、その率直な物言いから「アメリカ人以上にアメリカ人」と評されることもあるという。そんな藤森氏が挑むLIXILグループの大変革は、今後も注目を集めるだろう。しかしLIXILグループはGEではなく、藤森義明はジャック・ウェルチではない。M&Aを行った企業群を束ねて、新たな企業文化を創出すると同時に、利益を成長させることができるのか。藤森氏の本当の力量が問われている。
(文=編集部)

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