理化学研究所の野依良治理事長(76)が、3月末で辞任することが明らかとなった。2003年10月から理事長を務め、3期12年目。現在の任期は18年3月までで、任期途中での辞任になる。理由として、在任が長くなったことなどを挙げているという。
文部科学省関係者は「STAP細胞論文問題の引責ではない」としているが、それが理事長の本心だとすれば、同問題に対する十分な責任を取ることがないままの辞任となる。辞任に当たり野依氏は会見など開く予定はなく、理研広報を通じ「人事のことなので、お答えできない」とコメントしている。これは公人として国民に対して不誠意な対応だというしかない。
理化学研究所は独立行政法人だが公的機関であり、国から年間850億円もの補助を受けている(2012年予算ベース)。日本の人口一人当たり666円の税金が拠出されているのだ。そんな公的機関のトップ人事だからこそ、より一層の説明責任が求められるのだ。野依氏は最後まで自分の公的責任を自覚しなかったという点で、「欠格のトップ」だった。
14年初めから始まったSTAP細胞論文事件では、組織のトップである野依氏の顔が一貫して見えにくかった。論文に対する外部からの疑惑の指摘、論文の撤回、小保方晴子氏の釈明会見、笹井芳樹・元理化学研究所CDB副センター長の自殺、調査委員会の設置や報告会、小保方氏の退職など、この事件をめぐる約15カ月の間には、国民の耳目を集める節目となる事象がいくつもあった。しかし、その時々に組織の最高責任者である野依氏が自らメディアの前に出て見解を述べたり反論したりするようなことは数少なかった。数度の会見くらいしか記憶に残っていない。
●他人事のような発言
14年3月14日の記者会見で野依氏は、「今回のように未熟な研究者が膨大なデータを集積し、ずさんに無責任に扱ってきたことはあってはならない。徹底的に教育し直さないといけない。こういうことが出たのは氷山の一角かもしれない」などと、他人事のようなコメントを述べている。「理研には同様の問題が、まだたくさんあるということなのか。であれば、最高責任者である野依氏は何をすべきなのか」というのが筆者の感想だった。
また、野依氏は笹井氏についても「シニアになればなるほど故意であってもなくても、起こした問題への責任は大きい」と発言しているが、今回の野依氏の辞任理由に照らし合わせると、後に自殺を遂げた元部下に対するこの言葉には疑問を抱かざるを得ない。「素知らぬ顔をして逃げ出すな」と言いたい。
続く14年4月1日の会見で野依氏は一連の問題について、「誠に遺憾。科学社会の信頼性を損なう事態を引き起こしたことに対して改めてお詫びします」などと謝罪した上で「場合によっては私を含む役員の責任も、しかるべき段階で厳正に対処しないといけないと思っている」としたのだが、実際にはかたちばかりの減給だけだった。