テレビのキー局のほとんどが会見を中継し、専門媒体も含めてすでに多くのメディアがこの問題について報じているので、その詳細はここでは触れないが、小保方氏について「初歩的なミスとはいえ科学者として失格」「説明が稚拙」といったような批判が数多くなされ、「魔女狩り」の様相を呈しているような気がする。確かに小保方氏の説明には納得のいかない部分も多々残るが、論文作成のプロセスで落ち度があった程度なのに、「国民オール裁判官」気取りで、まだ将来のある若き研究者を断罪していいものなのか。
まず筆者は、理研のマネジメントが杜撰であるがあるゆえに、このような問題が起き、事態が深刻化しているのだと思う。筆者の取材に対して、ある理研の研究者は「小保方氏の論文が不正かどうかを判断するのはまだ早いが、理研には不正が起きる温床がある」と指摘した。その理由は、理研が異常なほどの行き過ぎた成果主義に陥っているからだという。一例として、「研究者を全員任期付の契約制にしようとしており、常に成果を出さないと契約を切られるかもしれないとの危機感を植え付けている」そうだ。公的な補助金も得て研究している以上、一定の成果が求められるのは仕方ない面もあるが、とにかく「研究成果」を出せと圧力をかけられるという。
しかし、驚くような研究成果は簡単に出せるものではない。長年の努力の積み重ねで「発見」は生まれる。期間を区切って生まれるものではない。イノベーションも然り。そもそも理研は「科学者の自由な楽園」と呼ばれており、科学者に自由にのびのびと研究させることで「成果」を出してきた。そして、その成果をビジネスに変えて、潤沢な資金をひねり出してきた。理研ビタミンの「わかめスープ」や、理研の発明をきっかけとして設立されたリケンが自動車部品を製造しているのもその名残だ。
だが、なんとも皮肉なことに、科学技術バブルと呼ばれて科学分野に莫大な国の予算が付くようになり、理研の風土は短期的な視野での「成果主義」に変貌した。そして、その成果を対外的にやたらと大げさに発表したがるそうだ。
そうした風潮を助長させているのが野依良治理事長だといい、内部では「鬼軍曹」とも呼ばれているようだ。その構図について、前出の研究者がこう解説する。
「科学技術バブルの恩恵を受けて理研には国から多額の補助金が下り、資金があり余っている。そのため、山ほど最新設備を購入し、海外出張も行きたい放題、年収が700万円ほどもあるポスドクもいるから、ポスドクを辞められない。理事長として名古屋大学から移ってきた野依氏が、その姿を見て『理研は努力もせず金満になっている、けしからん。論文を多く書いて、外部から競争的資金を取ってくるように』と指導し始めた。それにより競争が激しくなり、お金を稼ぐ研究者が偉いという風潮ができあがった」