武田薬品工業が2月5日、2015年3月期決算見通しを上方修正して発表した。売り上げは約1兆7250億円と据え置いたが、営業利益を約1700億円と200億円ほど上積みした(いずれも連結ベース、以下同じ)。前年となる14年3月期に約1兆6900億円だった売り上げはほぼ横ばいだが、営業利益は約1390億円だったので今期は着実に改善して、業績は上向き始めていると読める。
15年3月期の業績見通しが特に注目されるのは、昨年6月にフランス人のクリストフ・ウェバー氏が社長に就任したからである。ウェバー氏の薬品業界における経歴は、まばゆいばかりだ。仏リヨン第1大学で薬学博士を取得後、世界的医薬品メーカーである英グラクソ・スミスクライン(GSK)に入社、ヨーロッパ、アメリカ、アジアにおけるワクチン部門を統括した後、GSKフランス会長兼CEO、GSKアジア太平洋上級副社長兼地域統括などの国・地域責任者も歴任している。武田に入社する前はGSKワクチン社長兼CEOの責を果たしていた。グローバルな大企業で、特定の製品ラインの事業責任と地域責任の両方を47歳の若さで経験してきた。武田の長谷川閑史会長は、ウェバー氏招聘について次のように語っている。
「クリストフのような人材は、そういうところまできちんと手を打っておかないと来てくれません。それについてどうこう言う人は、世の中の現実が分かっていないのだと思います」(3月2日付日経ビジネスオンライン記事『強面の武田薬品会長が初めて漏らした本音 なぜ長谷川氏は「外国人経営」を決断したのか』)
「そういうところまで」とはCEO就任のことであり、すでにウェバー社長が4月1日付でCEOに就任することが発表されている。ウェバー社長が就任以来手がけてきた経営改革について長谷川氏は、「私がやってもできません。形だけはできるかもしれませんが、彼が今手がけているような実態を伴ったレベルまではできません」(同記事より)とまで評価している。
実は14年10月、武田は株式時価総額で初めてアステラス製薬に抜かれるという事態に直面した。もちろん社長就任直後のウェバー氏の責に帰するものではないし、そんな事態に差しかかってきたからこそ、長谷川氏はウェバー氏を招請したのだろう。
長谷川氏の「タケダ・グローバリゼーション」への覚悟は強い。経営の最高執行機関として「タケダ・エグゼクティブ・チーム」を組成したのだが、ウェバー氏を筆頭に外国人が16人中10人を占めている。これらの外国人幹部らも、ウェバー氏の存在がなければ獲得はならなかったと長谷川会長は振り返っている。武田は、経営の上層部から根こそぎ国際化しようとしており、同社ほどの国内大企業では起こり得なかった事態が起こっているのだ。
●外国人の経営トップ起用、分かれる成否
近年、国内大企業、それもオーナー系の大企業で、従業員社長ではなく外部からプロ経営者を招くケースが目立ってきている。LIXILの藤森義明社長やベネッセの原田泳幸社長などだ。しかし外国人の経営トップを推戴したケースでは、成否が分かれている。