日本は史上例のない超高齢化社会に突入した。現役ビジネスパーソンに対するネガティブな影響については2月6日付本連載記事『介護のための退職者、年間10万人の衝撃』で触れたが、筆者の98歳の老義母も介護を受けつつ生活している。家族にとってありがたいのは、介護保険による種々のサービスだ。介護必要度が本人の状況などにより認定され、介護ポイントが支給される。そのポイントを使って、ケア・マネジャーに相談しながら対象となる介護メニューからカフェテリア方式でサービスを選択できるという仕組みである。健康保険と並んで、日本とは本当にいい国だと思える制度の一つだ。
4月から、介護保険サービスを提供する事業者に支払われる介護報酬が改訂される。介護職員の処遇改善加算として一人月額1万2000円を上乗せできるようになるが、介護報酬全体としては2.27%の引き下げだ。介護報酬は3年ごとに改訂されるのだが、引き下げられるのは9年ぶりのことである。
今回の引き下げで特に影響を受けるのが、通所介護事業所(通称:デイケア)といわれるショートステイだ。デイケアの数は、2002年4月時の9726事業所から12年4月時には3万1570事業所と、10年間に3倍強となった(厚生労働白書<13年版>)。その基本報酬が約5~6%下がるという発表で、休業を決めた事業所もすでに出てきた。定員が10人以下のデイケア施設「小規模デイ」では、年間240万円ほどの減益という試算もある(3月2日付介護職向けウェブマガジン「けあZine」記事『介護報酬改定を受けて小規模デイ経営者が思うこと』より)。
●介護事業にプロ経営者
しかし、そんな介護事業者にとっては逆風の中で「当所は価格改定などせず、戦略対応で乗り切っていく」という経営者がいる。とびっきりホールディングス(HD)代表取締役の松田淳氏だ。小規模事業者が多いデイケア施設で同社もその例外ではないが、とびっきりHDの特徴は、自社をベンチャー企業として明確に捉え、プロの経営者がその事業を発足させた点だ。
松田氏は以前、大手銀行の行員だった。企業再生ファンドに転職して、さらにターンアラウンドマネジャーとして独立。とあるメーカーの再生に成功して、自分もエグジットしていた。「次は起業を」と考え、09年に筆者が主宰する「経営者ブートキャンプ」で半年間学ぶ間にデイケア事業の起業戦略計画を練り上げた。
「09年秋に卒業して、翌5月には『デイサービスとびっきり1号店』を開業していました。しっかり戦略発表をやらせてもらったおかげです。自分が居住していたのは東京でしたが、介護業界で働く弟の地盤である大阪市淀川区が、新幹線開通や万博開催から50年近くたったことで当時住み始めた世代の高齢化が進み、介護を必要としているお年寄りが多いとわかり、その地区に集中出店することにしました。ランチェスター戦略に従い、ドミナント出店したのです」(松田氏)