アジア自動車産業 競争的分業体制への歴史的転換(前編) 産業体制の前提条件が大きく変化
はじめに
東南アジア諸国連合(ASEAN)は、2015年末にASEAN経済共同体(AEC)を創設する予定である。この目標は(1)単一の市場と生産基地、(2)競争力のある経済地域、(3)公平な経済発展、(4)グローバルな経済との統合であると、07年に発表されたAEC創設に向けた実施計画「AECブループリント」で述べられている(『ASEAN経済共同体と日本』<石川幸一・助川成也・清水一史/文眞堂>より)。
これまでの経緯を見ると、期日までに計画通りの達成をみるとはいえないが、先行するタイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポールという先行5カ国の現実などを考慮すると、ベトナムや、カンボジア、ラオス、ミャンマーなどの後発諸国も巻き込む、かなり自由度の高い経済体が出現するとみてよいだろう。
自動車産業の国際競争力は、規模の経済に大きく依存することはよく知られている。15年末におけるAECの実現はこの地域の自動車生産の規模の経済を大きく左右する可能性があり、規模の経済を享受できない国やメーカーの劣後が生じる可能性も指摘され、そのような国やメーカーは生産からの撤退を余儀なくされるものとみられている。逆にいえば、規模の経済のメリットを発揮すべく各国、各メーカーはその生産体制を再編成していくものと考えられるのである。
2回にわたる本連載では、規模の経済の追求による競争力の向上を目指す各メーカーにより、ASEAN域内外の生産体制がどのような質的転換をもたらすかについて展望してみたいと思う。前編では、最初に過去20年近い経過を経てタイへの生産集中が続いたこと、次いでインドネシアなどの台頭を論じ、産業体制の構造的変化が生じたことを述べる。後編では、過去長年にわたり築かれてきた、各国が補完し合って量産規模を確保する体制から、主要国が競争関係を持った生産分業体制へと転換することを述べたい。併せて競争型分業体制に移行するためには、現地2次・3次サプライヤーの技術的能力のネックが課題である点について述べたい。
タイ集中体制の形成
タイにおける国内販売と生産台数は、13年にそれぞれ130万台強、約250万台、14年にはやや低下したものの、それぞれ約90万台、約190万台と、依然としてASEAN内で最大級の生産規模であることはもちろん、世界でみても上位にある自動車販売国、同生産国に成長した。販売では韓国、イタリアに次ぐ世界13位(13年)、生産は世界9位の水準で、ASEAN内では自動車販売、生産において最大規模である。その結果、同国からの最大の輸出品は自動車及び同部品で、約245億ドル(14年)を世界向けに輸出し、域内(9カ国)に向けても、約65億ドル(14年)の規模を誇っている。