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河村康彦「クルマ、再考」

軽自動車のXデー 5年後に消滅する もはや製品としては普通車と同じレベルである

文=河村康彦/モータージャーナリスト、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
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軽自動車のXデー 5年後に消滅する もはや製品としては普通車と同じレベルであるの画像1スズキ「アルトターボRS」(「同社HP」より)

 2014年の国内新車販売台数で初めてシェアが40%超を記録したと報じられている軽自動車。ボディの全長/全幅サイズや、搭載可能なエンジンの排気量に厳しい制約が課される一方で、普通車より低い各種税額が設定されるなど、結果として普通車に対する“優遇策”が講じられていることが、昨今の軽人気の大きな要因となっていることは間違いない。

 もちろんそれ以外にも、メーカー間の熾烈な競争がもたらした燃費の急激な向上など、ここにきて普通車のシェアを「食ってしまう」理由はいくつか考えられる。しかし、かつて普通車を乗り継いできたユーザーをダウンサイザーとして軽自動車の世界に迎え入れることが可能となった最大の要因は、なんといっても「製品そのものの見栄えや乗り味が、もはや多くの普通車とさして変わらないレベルにある」というポイントにこそある。つい最近も、そんなことを改めて痛感させられる機会があった。

 そのひとつは、かつて若者を中心に人気を博した「ワークス」を彷彿とさせるスズキのスポーツモデル「アルトターボRS」の試乗だ。もうひとつは、ホンダが昨年末に発売して話題を集めた「Nボックス スラッシュ」と、同社から間もなく発売予定の「S660」の試乗である。

 ライバルメーカーのエンジニアが「あの重量を実現したのはすごい」と驚く軽量化を徹底した上で、軽自動車の自主規制上限値である64psというパワーを持つターボ・エンジンを搭載したアルトの走りは、文句なしに「軽自動車の歴史上で最強にして最速」というフレーズが当てはまるもの。そして感心したのは、その仕上がりが単に「速い」というだけではなく、街乗りシーンでも思いのほかに上質な乗り味と両立されている点でもあった。

●コンパクトカーの水準をはるかにしのぐ

 一方のNボックス スラッシュは、居住空間を稼ぐべくルーフを高めたNボックスをベースに、今度はその全高を大胆に100mmもカット。それによって、他に類を見ないユニークなスタイリングを実現させると同時に、そこに旧き良き時代のアメリカン・カスタムカーのような風情が漂うインテリアや大出力のオーディオを採用し、すでに走り始める以前の段階で多くの人に「ちょっと乗ってみたい」と思わせる独創的空間を演出しているのだ。

 さらに極めつきは、プロトタイプ段階のモデルを試乗したS660だ。エンジンをミッドシップ搭載する2シーター・オープンボディの持ち主で、予想される売り出し価格が「およそ200万円から」と軽自動車としては飛び切りの高価さとなる。

 だが、いざ実車を目前にすると、こちらもまた見た目も走りの実力も、むしろ「そんな値段で大丈夫なのか」と思わせる仕上がりぶり。特に、インテリアの質感などは1リッター・エンジンを搭載するコンパクトカーの水準をはるかにしのぐもの。極端な仮説ではあるが、もしもこんなモデルをポルシェやBMWが手掛けたとしたら、「その価格は400万円は絶対に下らない」と思える一品なのだ。

河村康彦/モータージャーナリスト、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

河村康彦/モータージャーナリスト、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

1960年生まれの自動車評論家。自動車雑誌「モーターファン」の編集者を経て1985年にフリーランスとなる。

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