街中や電車の中で、マスクを着用した人を多く見かけます。もうインフルエンザのピークは過ぎたので、おそらく花粉症対策のためなのでしょう。今や国民のおよそ4人に1人が発症しているという花粉症。その最大の原因はスギ花粉とされていますが、本当にそれが原因なのでしょうか。スギは太古から分布していたのに、花粉症が騒がれだしたのは、ここ数十年のことです。また、スギ自体は農村地帯に多いのに、花粉症で苦しんでいる人は、東京などの大都市やその周辺に多いのです。なんとも不可思議です。戦後、スギの植林が政府の施策として進められ、それらが成長したためにスギ花粉が増えたといわれていますが、それだけではこれらの疑問は解けません。スギ花粉以外に、何か原因があるのではないでしょうか。
スギよりも排気ガスの影響が大きい
日本でスギ花粉症が最初に発見されたのは、栃木県日光市で1960代前半とされています。日光といえば、日光街道沿いのスギ並木が有名です。ただし、スギ並木のスギは、自動車の排気ガスの影響で減ってきています。
その日光市の住民を対象にした、花粉症に関する興味深いデータがあります。それは、古河日光総合病院の小泉一弘院長(当時)が、85年に行った調査です。小泉院長らは、日光市と隣の今市市(現在は日光市に合併)の住民の中から任意に3133人を選び出し、次の3つのグループに分類しました。
1.自動車交通量が多く、渋滞の激しい「スギ並木地区」
2.スギは多いが交通量は少ない「スギ森地区」
3.その他の「一般地区」
そして、これらの人々に3月中旬から4月にかけて、クシャミや鼻水、鼻づまりなどの鼻症状、充血や涙、かゆみなどの目症状が現れるか、アンケート調査を実施したのです。つまり、花粉症の症状と住んでいる地域のスギの量および交通量との関係を調べたのです。
花粉症の発生が最も多かったのは、今市市の「スギ並木地区」で14%でした。次に多かったのは、日光市の「スギ並木地区」で12%。そして、スギの多い「スギ森地区」は、予想に反して7~10%、その他の「一般地区」が7~10%で、全体の平均は10%でした。
この疫学調査から、どんなことがわかるでしょうか。
もし花粉症の原因が花粉だけであるなら、スギの多い「スギ森地区」での発生が最も多いはずです。ところが、実際には「スギ並木地区」や「一般地区」よりも少なかったのです。しかも、スギが極めて多く交通量の少ない日光市小来川では5.1%と、「スギ並木地区」の約3分の1でした。