これは、花粉症の発生に自動車の排気ガスが深くかかわっていることを意味しています。つまり、花粉症を増加させている主原因は、スギ花粉よりも自動車の排気ガスであることがわかったのです。
花粉だけでは花粉症は発生しない
これを裏付ける動物実験データもあります。それは、医学専門誌の「週刊日本医事新報」(日本医事新報社/85年4月6日号)に発表されたもので、東京大学物療内科の村中正治助教授(当時)らの研究グループは、マウスを使って次のような実験を行いました。
まず、スギ花粉中のアレルギー原因物質(アレルゲン)をマウスに注射して、それに対するIgE抗体がどの程度できるかを調べました。花粉症は、花粉アレルゲンに対して、免疫システムが反応し、リンパ球の一種であるB細胞がIgE抗体を作ることで発生します。したがって、もしIgE抗体ができなければ、花粉症は発生しないことになります。
実験では、マウスにスギ花粉のアレルゲンを4週ごとに1回、合計24週間で6回注射しましたが、IgE抗体はできませんでした。さらにスギ花粉のアレルゲンを10倍の量に増やして同じ実験が行われましたが、結果は同じでした。
次に、スギ花粉アレルゲンとともに、ディーゼル車排気ガス中の微粒子(DEP)をマウスに注射するという実験を行いました。その結果、注射して2週間後からIgE抗体が見つかるようになり、その後4週間ごとの注射で、明らかにIgE抗体が増えていったのです。スギ花粉アレルゲンを減らした場合でも、DEPとともに注射した場合にはIgE抗体が見つかり、12週間後からは明らかにIgE抗体が増えたのです。
この実験から、花粉だけでは花粉症は発生せず、ディーゼル車の排気ガスが加わると発症することがわかります。
日光での調査とこの動物実験によって、花粉症の大きな謎が解けたことになります。すなわち、なぜスギの多い農村部ではなく都会に花粉症患者が多いのか、なぜスギは太古の昔からあるのに高度経済成長期以降になって初めて患者が見つかり、その後増え続けているのか――それは謎ではなく、当然のことといえます。高度経済成長期以降に自動車が普及したので、それに合わせるように花粉症患者も増えたのです。また、都会は自動車が多く排気ガスによる空気汚染がひどいため、農村部よりも花粉症の発生する割合が高いのです。
結局、花粉症は単に花粉が原因ではなかったのです。人間が乗り回している自動車から出る排気ガスの影響によって生み出され、増加しているのです。このことをしっかり受け止めて、花粉症対策をしていかないと、いつになっても花粉症の患者は減らないでしょう。
(文=渡辺雄二/科学ジャーナリスト)