米国での議論
このように、主要国の警備当局がドローンに過剰反応しないのは、現時点ではハード面で対テロ対策の有効な方法がないためであり、ドローンを使う側のマナーやルール遵守を呼びかけるしかないと判断しているからでもある。特に米国はそれが顕著だ。米国政府関係者が小型ドローンで大騒ぎをしないのは、それがテロなど悪意的に使用される可能性があることは承知しているが、その最善の対応はドローンの規制強化ではなく、警備の面で対テロ対策を強化することだと考えているからでもある。
米国では対テロ対策は国土安全保障省が担当し、航空機の安全を目的に飛行ルールを策定するのはFAA(米航空局)と、責任分担が明確に分かれている。数年前からFAAはドローンの使用ルールに関して新たな法規を策定しているが、FAAの最大の関心事は民間機などの航空機の安全であり、民間機とドローンの接触事故などをいかに防ぐかで、彼らの仕事はテロ対策ではない。
米国には「テロ対策は国土安全保障省の仕事」という割り切りがある。それを理由に、FAAは基本的には今回使用されたような趣味用小型ドローンは厳しい法規制の対象外とし、飛行場周辺での使用規制と、目視で上空約122m以下といった簡単な規制しかない。彼らが最も厳しく臨んでいるのは、趣味用と同じ性能のドローンでも、それを使ってビジネスを考えている商用ドローンだ。
現在市販されているドローンには上空1km以上を飛行することが可能なのもあり、民間航空機とニアミスを起こす可能性もある。しかし、FAAは商用ドローンも趣味用同様に高度150m以上の飛行を禁止する規制案を出している。それには、商用ドローン関係者が「ビジネスにならない」と反発している。商用ドローンの使用目的としては農業用、監視偵察、災害対応、映画撮影、マスコミ取材、運搬搬送などがある。この分野がドローン・ビジネスで最も成長することは確実だ。
以上よりわかるように、米国などの主要国では同じドローンでも趣味用と商用とでは明確な一線が引かれている。しかし同一機種のドローンでも使い方や目的次第で趣味用と商用に区分されるので、ユーザーからは反発もある。現在米国でFAAの規制に対して厳しすぎるといった反発がビジネス界から上がっているのも、商用ドローンに限ってのことだ。
一気に規制の動き
FAAの航空法ルールでは、自家用機などを操縦するパイロットをプライベート・パイロットと呼び、客を乗せて収入を得るパイロットをコマーシャル・パイロットと規定して厳格な区別をしている。当然のことながら、顧客の安全を保障する必要もあり、コマーシャル・パイロットに対する規制は格段に厳しくなる。
同じことが商用ドローンにもいえ、アマゾンなどが考える輸送用ドローンが認可されると、低空とはいえ一気に大量のドローンが空を飛ぶことになる。FAAがドローンの法規づくりに慎重なのも、そのようなことが現実になった時に、いかに空の安全を確保するのかといった不安が存在するからでもある。