WSJによると、アマゾンは2012年からこの新ビジネスを念頭に置いた“実験”を続けていたが、当初は部屋の在庫を持っていた全米の業者を対象とした「大幅ディスカウント物件」を中心に検討していたようだ。だが今回始まったサービスは、パッケージ価格や大幅値引きの案件を扱うだけでなく、ホテル側に価格条件を柔軟に対応してもらう仕組みを採り入れた。クーポン共同購入サイト「アマゾン・ローカル」内でホテルは、より際立つように扱われており、アマゾン側の“配慮”がうかがえる。
アマゾンはこのサービスを非常に控えめにスタートさせ、プレスリリースなども行わず、WSJの記事などを通じて事実上の発表というスタイルをとっている。だが、ネットビジネス業界や旅行業の関係者は「いよいよアマゾンが利益の出る旅行ビジネスにも乗り出した」との見方で一致しているという。
実際にサイトを確かめてみると、紹介されている写真は外観や周囲の風景、部屋の内部や調度品、レストランで出される料理など、いずれも美しく、旅行好きなら宿泊してみたいと思わせるつくりになっている。既存の大手旅行予約サイトである「エクスペディア」や「ブッキングドットコム」の紹介の仕方に比べて、より温かい印象がある。
WSJによると、米国だけで旅行産業の2014年の市場規模は、実に4580億ドル(約55兆円)に上るという。このうちオンライン予約産業の市場は、「エクスペディア」と「ブッキングドットコム」の2大連合によってほぼ独占されてきた。この中ではアマゾンはまだまだ“端役”にすぎないが、業界関係者は「オンラインビジネスの巨人であるアマゾンがスケールアップしたら、有利な面がある」という認識を持っている。。
アマゾンによると現在のサイトは、対象エリアに住む人が短期間の旅行をする際の行き先選びに使ってもらうことを意図しているようだ。アマゾン関係者が実際に現地を訪れて、求めるクオリティに合致している物件を一つ一つ取り上げるという手づくり感が売りになっている。ここに共感する消費者の心をつかめれば、端役が主役に躍り出る日もそう遠くないかもしれない。
(文=中原宏実/経済ジャーナリスト)