特定労働者派遣事業廃止でパソナが儲かる?
さらに今回の改正案で深刻なのは、「特定労働者派遣事業」が廃止され、「一般労働者派遣事業」に一本化されることだ。これまでは、IT業界や製造業の技術者派遣では特定労働者派遣事業制度が採用されてきた。この制度は、派遣社員は派遣元会社(所属会社)に常時雇用(社保完)されている関係になり、安定した雇用関係のうえで、高いスキルを培うことができる。
なお、一般労働者派遣事業では、派遣社員は派遣会社にスタッフ登録し、派遣先が見つかった場合にだけ雇用契約を結んで就労する関係にすぎないため、派遣会社のコスト負担は極めて低い。逆に労働者は不安定な雇用関係のリスクにさらされているのだ。
特定労働者派遣事業制度では、就労関係の違いや高いスキルもあるために、派遣先会社が負担する単価が高くなる。26の専門業務を一般業務と同等の扱いにすることで、派遣先会社が高いスキルのある派遣社員も安いコストで使えるようにする狙いだ。
特定労働者派遣事業制度の廃止は、一般労働者派遣事業の派遣会社にとってもメリットが大きい。特定労働者派遣事業は届け出制だが一般労働者派遣事業は許可制で、資本要件などハードルが高い。現在の特定労働者派遣事業を営む中小派遣会社の多くは、一般労働者派遣事業に移行できず、倒産の危機に直面するだろう。こうした中小派遣会社が抱えるスキルの高い派遣社員は数万人いるといわれているが、彼らが市場に放出され、一般労働者派遣事業の派遣会社は囲い込むことができるようになる。
なお、一般労働者派遣事業の派遣会社の代表的な会社がパソナだ。パソナといえば、カリスマ経営者・南部靖之社長が創業した人材派遣業界の大手だ。南部社長は政界にも太いパイプを持ち、竹中平蔵元総務相を取締役会長に据えている。昨年5月に男性デュオ・CHAGE and ASKAのASKA(本名:宮崎重明)が覚せい剤取締法違反で逮捕・起訴された事件でも、南部社長の名前が報じられた。ASKAと一緒に逮捕された愛人の栩内香澄美被告(第1審で懲役2年執行猶予3年の有罪判決、現在控訴中)が南部社長の秘書で、ASKA容疑者と知り合ったのが同社の“VIP接待の館”と呼ばれる「仁風林」であり、そこでのパーティには政治家や大物官僚などが出席していたことも報道された。
そのように羽振りのよい派遣会社だが、労働者派遣法の改正で、今後ますます派遣社員からお金をかすめ取ることができるようになるのだろうか。
(文=小石川シンイチ)