「まさか私が雇い止め(更新拒絶)に遭うとは……」と嘆くのは、派遣社員のBさん(40代男性)。Bさんは某大手メーカーのエンジニアとして働き始めて3年目になるが、今後、派遣契約が更新されないことが通知されたのだ。
「最近、私が担当している業務をサポートするという名目で、若い派遣社員が一緒に仕事をするようになっていましたが、これは私に代わる若い派遣社員への、事実上の引き継ぎだったのでしょう」(Bさん)
Bさんの業務は専門性が高く、他社に移るというわけにもいかない。何より、現在の会社でいずれは正社員に採用されるつもりだっただけに、衝撃は大きいのだ。会社側にしてみれば、専門性が高い業種でも、できるだけ安い人件費で採用したい。常に若い派遣社員で仕事を補いたい、ということだろう。
いつまでも若い派遣社員で回し続ける――そのように、企業にとって都合のいい制度が採用されようとしている。それが労働者派遣法の改正だ。派遣労働は現在、派遣先企業が派遣労働者を受け入れる期間について、通訳や秘書、事務機器操作など26の「専門業務」は無期限、それ以外の「一般業務」は同じ職場で最長3年が期限となっている。
今回の改正案は専門業務と一般業務の区分を撤廃し、派遣労働者は3年後に「別の職場に移ることが認められれば」同じ派遣先企業で「無期限に」派遣社員として働くことができる。
労働者派遣法の改正案は、2014年の通常国会と臨時国会に提出されたものの、いずれも廃案となっており、厚生労働省の担当課長は今年1月末、派遣業界団体の新年会で派遣労働者を「これまで使い捨てというモノ扱いだった。ようやく人間扱いする法律になってきた」と発言したことが問題視された。塩崎恭久厚生労働大臣は「派遣で働く人たちの立場を守りながらステップアップしていく改正案だ。今国会で通してほしい」と語っている。
しかし、「派遣で働く人たちの立場を守りながらステップアップしていく」とはいうものの、現実的には派遣社員は3年を契機に雇い止めになり、新しい派遣社員へ入れ替えられるのだ。つまり、これまでの26の専門業務も含めたすべての業務で、3年ごとに新しい派遣社員に替えることが可能になるのだ。
5月7日付当サイト記事『嘘だらけの「正社員への登用試験」が不幸な人を量産!合格しても正社員になれず、低い合格率…』において、高いスキルのある契約社員でさえも、勤続年数の上限である「5年」を前に雇い止めに遭ってしまう現実を紹介したが、より企業に軽く見られがちな派遣社員では、なおさら雇い止めされかねないのだ。