波瑠や東出昌大らが出演するドラマ『あなたのことはそれほど』(TBS系)の第9話が6月13日に放送され、平均視聴率は10.1%(関東地区平均、ビデオリサーチ調べ)だったことがわかった。自己最高を記録した先週からは3.4ポイント減らしたが、裏ではサッカーワールドカップ・ロシア大会のアジア最終予選が放送されていたため、2桁キープは大健闘といってよいだろう。
同ドラマは、思いのままにダブル不倫に突き進んだあるカップルを中心に、それぞれの配偶者や周囲の人々を巻き込んで起こる、さまざまな出来事を描いていくストーリー。結婚してすぐに不倫に走った主人公・美都を波瑠が演じ、夫の涼太役で東出昌大、美都の同級生で不倫相手である有島役で鈴木伸之、その妻・麗華役で仲里依紗が出演している。
前回は美都のマンションに不倫を暴露するビラがまかれ、勤め先の眼科のクチコミにも不倫を非難するコメントが書き込まれたという衝撃のラストを迎えたが、第9話では一転して涼太の同僚である小田原(山崎育三郎)が視聴者に衝撃を与える役回りを演じた。小田原はこれまで、どこか意味ありげなそぶりを見せつつも美都と涼太の夫婦を見守ってきたが、美都の不倫を知ってからは2人を別れさせようとする言動が目立っていた。これについて真意をいぶかる視聴者も少なくなかったが、小田原が美都に告げた一言ですべてが明らかになった。
「オレは涼太が好きなんです。あなたよりもずっと、ずっと前から」
涼太に気持ちを伝えるつもりはなく、ただ幸せな姿を見ているだけでよかったという小田原は、なおも涙を流しながら叫ぶ。
「結婚なんて贅沢、望みもしない。人の気持ちを一生欲しがるなんてどんだけ欲張りなんだよ!」
前回、「俺は誰かに愛されたいと思うほど欲深くありませんから」と語った真意は、こういうことだったのか--。涼太を愛するがゆえに、涼太に愛されることは望まず、涼太が幸せに暮らしてくれることだけをひたすら願って生きる。あまりにも切なく、高尚な愛の形である。
そんな小田原に感情移入した視聴者も多く、共感する声が続々と上がった。
「小田原さん切なかった」
「小田原さんの気持ちすごくわかる。好きだけど諦めた人が、どうしようもない女にあんなにボロボロにされたら絶対許せないと思う」
「誰か小田原育三郎を幸せにしてあげて」
「小田原さんに全部持っていかれて、後の話どうでもよくなった」
初回からここまで主要な登場人物たちによるゆがんだ愛の形をこれでもかと描いておいて、それとはまったく対照的な無私の愛を、ゲイもしくはバイの男性を通して描いた脚本の妙をたたえたい。
視聴者に疑問を突き付けてきた脚本
さらに、もう一人の脇役・有島家の隣人である皆美役の中川翔子の怪演技も話題になった。ビラやネットの書き込みで美都を中傷していた皆美は、「ああいう悪い女にはこれくらいしてやらないと。天罰よ天罰」と、満面の笑みで自身の犯罪行為を麗華に自慢した。これは、何か対象を見つけたら正義の名のもとにこぞってバッシングし、炎上させる社会の縮図なのか。しょこたんの見せた狂気の笑顔が鏡に映った自分の顔かもしれないと思うと、心の底からゾッとさせられる。
皆美のしていたことは犯罪だが、それをとがめた麗華も「学級委員みたいに当たり前のこと偉そうに」と反論されてしまう。また、再三にわたって美都に忠告してきた香子(大政絢)は眼科の院長・花山(橋本じゅん)に「気持ちいいんですよ。自分が絶対的正義の立場から説教するの」と告白した。このドラマは美都と有島の不倫カップルをこれでもかと言わんばかりにクズ人間として描いてきたため、視聴者も彼らに因果応報の罰が下る展開を自然と心待ちにするようになっていた。
そんな視聴者に「それってどうなの?」と疑問を突き返してきた脚本には素直に「やられた」と言わざるを得ない。視聴者からも、「誰目線で観ていても、どこかしらで罪悪感か嫌悪感に駆られる」「善人の中にもよこしまさがあり、悪人の中にも誠実があるってことかな」「みんなそれぞれまっすぐで、それぞれ少しズレている。でもそれが人間ってもんだ」など、意外と深かったこのドラマのテーマ性を考察する声が上がり始めた。いよいよ次週で最終回。どのように完結してもすっきりしなさそうな話をどうまとめてくれるか楽しみだ。
(文=吉川織部/ドラマウォッチャー)