波瑠や東出昌大らが出演するドラマ『あなたのことはそれほど』(TBS系)の最終回が6月20日に放送され、平均視聴率は自己最高の14.8%(関東地区平均、ビデオリサーチ調べ/以下同)だったことがわかった。初回の11.1%から2週目で9.0%にまで下がり、4週連続で1桁台となるなど序盤は低迷したが、不倫された側の配偶者が反撃の兆しを見せた中盤以降は盛り返し、6話からは毎週約1ポイントずつ数字を増やす快進撃を見せていた。第9話こそサッカーの2018FIFAワールドカップ・アジア最終予選の放送時間に当たったため視聴率を下げたが、最終話で有終の美を飾ったかたちだ。
このドラマは、思いのままにダブル不倫に突き進んだあるカップルを中心に、それぞれの配偶者や周囲の人々を巻き込んで起こるさまざまな出来事を描いていくストーリー。結婚してすぐに不倫に走った主人公・美都を波瑠が演じ、夫の涼太役で東出昌大、美都の同級生で不倫相手である有島役で鈴木伸之、その妻・麗華役で仲里依紗が出演した。
最終回では、それぞれの配偶者に不倫を知られてしまった美都と有島の末路がどうなるのかの一点に視聴者の関心が集まった。結論から言うと、結末はかなりリアリティーのあるものとなった。有島は実家に戻った麗華のもとに毎日朝と晩に通い続け、結果的に元のさやに収まった。一見すると反省して誠意を見せたように見えるが、彼は浮気している間も妻や子どもを大事にしていたのであり、浮気したから心を入れ替えて家庭を顧みるようになったわけではない。
有島がほとんどなんの罰も受けていないように見えることに対しては、「納得いかない」「なぜ許されるの?」「一番の元凶なのに晴れ晴れとしているのが許せない」など、視聴者から怒りの声も相次いだ。だが、確かに今は許されたかもしれないが、妻は妊娠中の夫の浮気を決して忘れないだろう。そして、本質的に変わっていない有島は、またいつの日か浮気を繰り返し、その時にもっとひどい修羅場が訪れることだろう。そう考えると、「有島の罰は先送りされただけ」なのではないだろうか。
有島が元のさやに収まったのとは対照的に、美都は涼太と別れることになった。“自分を裏切った妻でも愛し続けなければならない”との呪縛からすっかり解き放たれた涼太に「君は自分を肯定することにかけては天才的だね」「かわいそうにね。僕でも一番好きな人と結婚できたのに」と、半ば小バカにされてしまう美都。望んでくれるならやり直しても良いとの申し出も「今、僕の気持ちはみっちゃんのことはそれほど(好きではない)」と却下され、さすがの美都も「あなたのことを傷付けたこと、忘れずに生きていこうと思います。ほんとにごめんなさい」と深々と頭を下げた。
とはいえ、1年後の美都はそれなりに楽しそうに独身生活を送っており、特に落ち込んだ様子も反省した様子もなかった。むしろ、次の「運命の出会い」を待っているあたりを見ると、本質的には何も変わっていないのかもしれない。あれだけ夫にひどいことをしておきながら、心の底から自分が悪かったとは思っていない美都は、きっとまたいつか男で失敗するのだろう。有島と美都の結末を通してこのドラマが言いたかったのは、「人間はそうそう変わらないし、変わらない以上はうまくいっているように見えてもいつか同じ失敗を繰り返す」ということなのではないだろうか。
清純派の波瑠が演じきった見事さ
こうした結末について、美都と有島がコテンパンにやっつけられたり、破滅したりするような結末を期待していた視聴者からは不満の声も少なくなかったが、それ以上に称賛の声も多かったのではないか。放送後には「終わってみると、なんだか割と良いドラマだった」「涼ちゃんがタイトル回収したのがよかった」「最後はいろいろと考えさせられたし、気持ち良いラストだった」「描くことは描ききって、ちゃんと完結させたことに感動」「不倫したらこんなに大変なことになりますけど大丈夫? あなた覚悟あるの? って感じがすごくリアルで良かった」など、うまいオチだったとの評価がインターネット上に続々と書きこまれた。
また、「ここまでのクズ女を清々しく見られたのは、波瑠ちゃんの力」「波瑠ちゃんが難しいヒロイン役をしっかり演じたから最後まで完走できたと思う」「あの役やりきった波瑠さん偉いと思った」「美都には終始イライラしたけれど、波瑠の演技がそれほど自然で上手いということかな」といった具合に、主演の波瑠の演技をたたえる書き込みもあふれた。
ドラマ序盤は役柄と波瑠を同一視して叩く風潮もあり、筆者も「清純派の波瑠が汚れ役を演じるのはまだ早いのではないか」と論評したことがあるが、今となっては謝りたい。どこまでもあっけらかんとして悪びれない、不倫をするクズ女なのに透明感のある波瑠の演技がなければ、今作がこれほど注目を集めることも視聴率を残すこともなかったに違いないからだ。
波瑠が最終回前日に更新したブログにおいて、美都の役柄を突き放したような書き方をしたことについては批判もあるようだが、役柄との距離の取り方は役者それぞれで異なるので、良い悪いの問題ではないだろう。むしろ、一切役柄に共感せずにあの役をやり切ったことに、波瑠の役者としての才能を感じずにはいられない。
すべり出しは非現実感満載のハチャメチャな不倫ドラマと見せかけて、実際にはこれまでのどんな不倫ドラマよりもリアリティーにあふれていた『あなたのことはそれほど』。今後も数限りなくつくられていくであろう不倫ドラマの系譜に一石を投じたといえよう。
(文=吉川織部/ドラマウォッチャー)