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『カンナさーん!』、シングルマザーへの否定に結びつきかねない誤解と偏見

文=美神サチコ/コラムニスト
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1707_kanna550.jpg『カンナさーん!』公式サイトより

 8月29日放送の連続テレビドラマ『カンナさーん!』(TBS系)第7話が、平均視聴率9.2%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と自己最低記録を更新。渡辺直美が“シングルマザー”を演じる同ドラマは、当初はそういった家庭や周囲への問題提起となる良作かと思われたが、もはや「誰にも見てほしくないドラマ」となってしまった。

 主人公の河東カンナ(渡辺)は、夫だった鈴木礼(要潤)の不倫を機に離婚し、息子・麗音(川原瑛都)を抱えるシングルマザーとして奮闘している。ドラマ開始当初は、シングルマザーならではの葛藤に、職場や義実家との関係など、現実に離婚を経験すればぶち当たるであろう“壁”が分かりやすく描かれていた。渡辺を起用しているだけあってコミカルな要素も多いけれど、それがかえって重いテーマを和らげ、気軽に視聴できる作品として成り立っていたように思う。

 だから私は、離婚をして再出発を図ろうとしている人、今後離婚を考えている人に「ぜひ見てもらいたい」と思っていたし、そうしてシングルマザー(またはシングルファザー)となってがんばっている人に寄り添うような、「すべての人に見てほしいドラマ」といえる作品になると思っていたのだ。

 だが、残念ながら私の思い違いだった。第7話だけクローズアップしてみても、「多忙なカンナがつい厳しくしたことで、麗音が元気をなくす」「カンナや麗音を迎えに行くためにがんばっていたはずの礼が、仕事の合間をぬって幼馴染の緒川俊子(泉里香)と会う」「カンナに失職の危機が訪れる」という問題が続出したのだが、ひとつひとつを見ていくと疑問点だらけだ。

 まず、カンナが麗音を叱ったのは、新居の壁に落書きをしたから。これって叱られて当たり前の行為だと思うのだが、その後、麗音に元気がない様子が続くため、「キツくあたったカンナが悪い」ように見えるのが、どうも納得いかない。もっといえば、「余裕を失った母親は悪」と突きつけられているような気がする。もちろん、一番にケアしなければならないのは子どもだし、余裕をなくした結果の虐待などはもってのほかだが、そんな極端なケースを除いた場合、母親が余裕をなくしても悪ではないはず。

 また、心を入れ替えたはずの礼も、忙しいといってカンナや麗音には会いに来ないくせに、俊子とは会うなんて、結局何も変わっていなかった。一応、礼の母・柳子(斉藤由貴)の策略によるもののようだが、俊子と会っているのは事実。一度不倫されたカンナが、今度またしても傷つく姿など、誰が見たいだろうか。

 一方、成績がふるわず、リストラ寸前のカンナ、生活が脅かされているというのに、夢や理想ばかりを語り、会社に残るために人事に媚びるのは嫌だと主張。このシーンには二重の問題があって、ひとつは「綺麗事で突き進もうとするカンナ」への苛立ち。もうひとつは、そのカンナの振る舞いのせいで「シングルマザーは現実を見ろ」と視聴者に思わせてしまうことだ。猪突猛進タイプのカンナへの違和感が、バランスをとって夢も大事にしているシングルマザーへの否定にも結びついてしまいかねない。

 こうした誤解や偏見の恐れがあるだけに、私は同ドラマを「誰にも見てほしくない」と思ってしまうのだ。
(文=美神サチコ/コラムニスト)

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