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広瀬すず圧巻の『anone』、脚本も演出も最高の出来で『カルテット』現象再来か

文=吉川織部/ドラマウォッチャー
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 広瀬すず主演の連続テレビドラマ『anone』(日本テレビ系)の第一話が1月10日に放送され、平均視聴率は9.2%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)だったことがわかった。事前に公表されていたあらすじはさっぱり意味がわからなかったため、幅広い視聴者層に訴えるものではなかったように思う。どちらかというと、2017年放送の『カルテット』(TBS系)など話題作を連発する坂元裕二の脚本と、主演を広瀬が務めるという情報だけで、期待を高めて視聴したドラマファンが多かったのではないだろうか。

 通常ならここで第一話のストーリーを簡単に紹介するところだが、前述の通り文章で書いても大変わかりにくいため、バッサリとカットしたい。代わりに、主な登場人物だけを紹介しよう。

 広瀬演じるハリカは、インターネットカフェに寝泊まりし特殊清掃のアルバイトで生計を立てる少女。幼い頃に森の中の家で祖母と暮らした幸せな日々を心の支えにしている。2話以降でハリカと深く絡んできそうなのは、田中裕子演じる亜乃音。彼女は亡くなった夫が経営していた印刷工場の床下から大量の1万円札を見付けたが、なぜかそれを浜辺の砂の下に隠した。

 このほかに、一風変わったカップルとして阿部サダヲ演じるカレー店の店主・舵と、小林聡美演じる謎の客・るい子が登場。舵は余命半年の宣告を受けて店をたたみ、自ら命を絶とうとしていた。るい子も勤め先に火をつけた罪で服役し、出所したものの行く当てがなく、やはり死のうとしていたのだという。

 第一話ではこのように、一見するとなんのかかわりもない人々がバラバラに登場。序盤はどういう意味なのかまったくわからずやきもきしたが、やがて亜乃音が隠したお金に引き寄せられるかのようにこれらの人々が「柘(つげ)」という町に集まってきた。ところが、ラスト近くになって亜乃音は隠していた1万円札を燃やして処分する。お金は偽札だったのだ。

 保冷バッグに詰まった1万円札を目にしたこのドラマの登場人物たちは、なんのためらいもなく瞬時にそれを奪おうとする。現実には罪を恐れてためらったり、正直に警察に届けようとする人のほうが多いだろう。そこをあえて真逆に描いたことで、彼らの背景が視聴者に重くのしかかる。身寄りのないハリカにも、間もなく死のうとしている舵とるい子にも失うものなど何もないのだ。今さら犯罪など怖くもなんともないし、何が起きたとて悲しむ人などいない。このドラマは、そういう人たちが紡いでいく物語だといえる。

最高の演出で見ごたえ抜群

 テーマは重いが、見ごたえは抜群だ。『カルテット』で数々の名台詞もしくは名言を生み出した坂元脚本は冴えわたり、本作でも初回から“刺さる”台詞が連発。「努力は裏切るけど、あきらめは裏切らない」「お金じゃ買えないこともあるけど、つらいことは減らせる」「大丈夫は2回言ったら大丈夫じゃない」「過去の自分は助けてあげられない」など、真実を突くような名言が次から次へと飛び出した。ドラマの中の名言ばかりが注目されることを逆手に取ったような「名言っていいかげんですもんね」という台詞まであり、なかなかシャレが効いている。

 謎を残しつつも、ある程度視聴者を“わかったような”気にさせる脚本も絶妙だ。脇を固めるベテラン俳優たちの手堅い演技は言うまでもないし、髪をベリーショートにして役づくりに臨んだ広瀬のやさぐれ感もすばらしい。数々のドラマやテレビCMで見せた、キラキラした美少女感やあふれ出るヒロイン感がものの見事に消え失せており、世の中にある種のあきらめを持って淡々と生きる孤独な少女を演じ切っている。チャットアプリで会話するシーンも少なくなかったが、声の演技にも力がある。広瀬の顔とスマホの画面が延々と交互に映し出されるだけの演出だったため、ともすれば単調になりがちな場面だったが、声だけで見る者をグッと引き付けるのは本当にすごい。広瀬の演技が抜群にうまいことはある程度知られてはいたが、さらに演技の幅を広げる作品になりそうだ。

 まだまだ書きたいことはあるが、長くなりそうなので最後にひとつだけ、抑えめの演出が良かったとも言っておきたい。なかでも、幼い頃の思い出が偽りの記憶だったことを思い出したハリカが、頭を抱えて絶叫したり取り乱したりせず、石をひとつ投げた後は静かに泣くばかりだったという演出は最高だった。若手の役者にむやみに叫ばせたり暴れさせたりして「体当たりの演技」ともてはやす傾向にうんざりしていたので、非常に気持ちよく見ることができた。視聴率的には今後もかなり厳しいと思うが、『カルテット』同様に熱狂的なファンを生み出す作品になる可能性は大きい。
(文=吉川織部/ドラマウォッチャー)

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