中谷美紀主演の連続テレビドラマ『あなたには帰る家がある』(TBS系)の第5話が11日に放送され、平均視聴率は前回より1.5ポイント上がって8.0%(関東地区/ビデオリサーチ調べ)だった。
茄子田家に乗り込み、「二度とうちの家族に近づかないで」と茄子田綾子(木村多江)に宣言した佐藤真弓(中谷美紀)。それでも怒りは収まらず、夫の秀明(玉木宏)に「あの女はヤバイ」と訴える。だが、秀明は控えめでおとなしい綾子の姿しか見ていないため、にわかには信じられなかった。
一方、茄子田太郎(ユースケ・サンタマリア)は妻の言動や佐藤家の状況から、妻と秀明の関係を疑い始めていた。その頃佐藤家では家族旅行に行く話が持ち上がり、麗奈(桜田ひより)の希望に合わせて茨城の温泉旅館に1泊で出かけた。現地の寺で家族水入らずで散策を楽しんでいたその時、突然目の前に茄子田家の人々が現れた――という展開だった。
この後ユースケ・サンタマリアと木村多江の怪演が火を噴くのだが、この2人のうますぎる演技についてはこれまでも何度も書いてきたので、まずは別の注目ポイントを挙げたい。それは、「中谷美紀がようやく本領を発揮し始めた」という点だ。
中谷美紀はキャリア十分の実力派であるはずだが、今作に限って言えば役作りを失敗しているように見えた。とにかくただわめく&変顔をするのパターンばかりで、ドラマ全体のテイストとも玉木宏ともまったくかみ合わず、視聴者からも「1人だけ浮いている」「舞台と間違ってるんじゃないのか」などの批判が聞かれたほどだ。ただ、実力のある女優であるだけに、いずれは修正してくるのではないかと期待もしていた。第5話での中谷の演技は、その期待に応えてくれたといえよう。
なかでも、真弓が久しぶりに秀明とひとつのベッドに入ったシーンは、中谷が力の抜けた自然な演技を見せてくれたおかげで、質の良いコメディ―として気持ちよく見ることができた。「挑むべきだろうか」と様子をうかがう秀明と、「こんな時に挑んでくるとかないよね?」と背中を向ける真弓との無言の攻防は、能天気な玉木の演技を中谷が嫌味なく受け止めてくれないと成立しない。
インターネット上でもこの場面がおもしろかったとの声が多く見られ、サスペンス色の強いストーリーの中にバランスよく笑いを織り込もうとする制作側の狙いは、バッチリ当たったようだ。前回も触れたが、このドラマの見どころは2組の夫婦を演じる4人の演技合戦に尽きる。中谷が本来の力量を発揮し始めたことで、ますます火花が飛び散る役者同士の対決が見られそうだ。
さて、第5話では、視聴者がこれまで茄子田家に対して抱いていたイメージが間違っていたことをほのめかす描写がなされた。木村演じる綾子は、夫の太郎にも義理の親にも抑圧され、自分の意見を言えずにじっと家の中で耐えている女性のように描かれていたが、どうやらそうでもないらしい。浮気していた日の行動を夫に聞かれて何食わぬ顔でしらばっくれる様子は、嘘をつき慣れているとしか思えない。
太郎の母も「私を重病人扱いして家を乗っ取った」と綾子に不満たらたらで、「あの女は相当なもんだよ」とわざわざ秀明に忠告してくれるほど彼女が嫌いらしい。しゅうとめの言うことなので少し盛っているのかもしれないが、まるっきり嘘とも思えない。
一方、妻をはじめとして周囲の誰に対しても上から目線で常に偉そうに振る舞う太郎についても、実は心の弱い人間であることがわかってきた。妻の行動をいちいち手帳に記録しているのも、妻が嘘をついているとわかっても追及できないのも、そのためらしい。真弓の言動ですべてを察した時も、その現実を受け止められなかったのか、目の前に秀明と綾子がいるのに2人に何も言えないまま黙ってタクシーに乗って走り去ってしまった。弱いからこそ虚勢を張っていたということなのだろうか。
この先の展開はまだわからないが、実は綾子と太郎の力関係が逆で、綾子がすべてを支配していたというびっくり展開もおもしろそうだ。残り回数が意外に多いため(全10話ならあと5話)、これ以上描くことがあるのかという不安要素もあるが、引き続き注目したい。
(文=吉川織部/ドラマウォッチャー)