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『西郷どん』水戸黄門のような「テンプレ展開」で陳腐化…斬新すぎる脚本で興ざめ

文=吉川織部/ドラマウォッチャー
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 鈴木亮平が主演を務めるNHK大河ドラマ『西郷どん』の第20回が27日に放送される。

 20日に放送された前回は、流人として奄美大島で幽閉生活を送る西郷吉之助(鈴木)が島の娘・とぅま(二階堂ふみ)を妻に迎えたいきさつに、まるまる1話を費やした。そもそものきっかけは、薩摩藩の代官が砂糖隠しの濡れ衣を龍佐民(柄本明)に着せて捕縛したという事件だ。薩摩藩は大島が産出する黒糖を税として島民に課していたが、その量があまりにも過酷であったため、島民は既定の量を納めることができずにいた。

 だが、それでは自分の責任問題になると考えた代官は、「島民が隠していたから足りなくなった」というストーリーをでっちあげ、佐民にウソの自白をさせようとしていた。不当なやり方に激怒したとぅまは島民たちを率いて代官所に押し掛けるが、悪辣な代官を前にしてなすすべもなかった。ところが、そこに駆け付けた吉之助は代官を一喝して黙らせ、佐民が捕らわれていた牢屋の錠を壊して彼を助けた――という展開だった。

「奄美大島編」のスタートとなった18話は、美しい奄美大島のロケーションと生き生きした二階堂の演技が注目を浴び、「急におもしろくなった」と評判を集めたが、19話では賛否両論が噴出した。「やっぱり島編はおもしろい」との声が依然として相当ある一方で、「水戸黄門のような娯楽時代劇になってしまった」と嘆く声もある。筆者自身は後者の意見に同意する。

「水戸黄門のような娯楽時代劇」とは、「私腹を肥やす」「気に入った娘を我が物にしようとする」といったお決まりの悪事を働く悪代官などが、一般人を装っていた身分の高い人物にやり込められるストーリーの時代劇を指す。『暴れん坊将軍』『名奉行 遠山の金さん』(ともにテレビ朝日系)など、長年愛された時代劇にはこのパターンが多い。これらに共通する特徴は、悪人たちが図に乗って無茶な悪さをすることと、最後には正体を明かした主人公が権力と実力行使で悪人たちを従わせることにある。第19話のストーリーはまるっきりこのパターンをなぞっており、“テンプレ展開”そのものである。

 まず、よく考えてみればわかることだが、代官の行動そのものが理屈に合わない。「島民が隠していた」と薩摩藩に報告したところで黒糖の生産量が増えるわけでもなく、あまりにもその場しのぎだ。それならまだ、天候不順で生産量が落ち込んでいると藩に報告したほうがマシではないのか。

 少しでも砂糖の生産量を増やそうと考えているにもかかわらず、貴重な男の働き手を2人も牢に閉じ込めるのも変だ。とぅまに向かって、現地妻になるなら佐民たちを助けてやると卑怯なことを言い始めるのはわかるが、それなら最初からとぅまを捕らえたほうが良いのではないか。また、佐民を拷問してうその自白をさせようとするより、「言うことを聞かないととぅまをひどい目に遭わせるぞ」と脅したほうがよっぽど効率が良さそうだ。吉之助をヒーローにするために無理やり代官を悪役に仕立てているものだから、脚本にいろいろ無理が生じていると言わざるを得ない。

 ただの流人だと思っていた男が西郷吉之助だったことを知り、さしもの代官もおとなしく引き下がった――という水戸黄門的結末も、取って付けたようで違和感がぬぐえない。フィクションを織り交ぜたドラマである以上は、こんな結末もあってもいいとは思うが、本来は「西郷吉之助は薩摩藩でも指折りの有名人かつ有力者である」という伏線がなければ成立しない。

 だが、これまでドラマのなかでそのような描写はなかったため、いつの間に吉之助は代官が恐れ入るほどの重要人物になったのかと不思議でならない。確かに、島津斉彬(渡辺謙)が生きていた間は藩主の近くに仕える役目であったが、今となってはなんの後ろ盾もない厄介者に成り下がっており、「西郷吉之助は薩摩と日本にとって必要な人物だ」と評価してくれるのは大久保正助(瑛太)のみだ。では、代官は西郷という人物のどこに恐れ入ったのだろうか。伏線を張っていないのに回収するとは、随分と斬新な脚本である。

 さて、20話からは再び吉之助が政治の動きに巻き込まれていくようだ。「政治がまったく描けていない」「政治を描く部分がつまらない」との批判も多いが、比較的好評な「島編」の勢いに乗って好調を維持できるだろうか。
(文=吉川織部/ドラマウォッチャー)

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