連続テレビドラマ『絶対零度 未然犯罪潜入捜査』(フジテレビ系)の第6話が13日に放送され、平均視聴率は前回から0.2ポイント増の10.6%(関東地区、ビデオリサーチ調べ)だったことがわかった。
このドラマは、元公安のエリート・井沢範人(沢村一樹)率いる「未然犯罪捜査班(ミハンチーム)」の活躍を描く物語。警察が極秘に開発した「未然犯罪捜査システム(ミハンシステム)」が割り出した情報に基づいて殺人事件を犯そうとしている人物を捜査し、その犯行を未然に防ぐのが彼らの任務だ。
前回の第5話までで、法で裁くことができなかった犯罪者を次々に殺害している「仕置人」の存在が明らかになっていた。状況的に、仕置人がミハンチーム内部の人間であることはほぼ明らかになっており、第6話はそれが誰なのかのただ一点に焦点を当てた回となった。
仕置人の正体については視聴者の間でさまざまな予想があり、井沢はもちろんのこと、ミハンシステムを推進する東堂定春警部(伊藤淳史)、海外で死んだことになっているものの恐らく実は生きている桜木泉(上戸彩)など、さまざまな人物の名前が挙がっていた。一方で、「すみません」が口癖で、さまざまな部署をたらい回しにされてきたという冴えない警察官・田村薫(平田満)こそ怪しいのではないかという声もあった。
結論から言うと、ミハンチームの捜査で得られた情報をもとに、法で裁けない悪人を陰で始末していた仕置人は、やはり田村だった。田村は、東堂が子どもの頃に巻き込まれた無差別殺傷事件において、婚約者を殺害されたというつらい過去を背負っていた。当時田村は、その地域で起こっていた動物殺傷事件がより重大な事件の予兆ではないかと上官に進言していたのに取り合ってもらえず、結果的に無差別殺傷事件を防ぐことができなかった。
田村が犯人をマークしていたことを知った遺族らは、やり場のない憤りを彼にぶつけた。田村はひたすら、「すみません、すみません」と謝罪し続けたのだった。いつも、親子ほど年齢の離れた小田切唯(本田翼)にまで「すみません」を連発していた田村。ただ気が弱いだけのおじさんかと思っていたら、この「すみません」という一言こそがあまりにもつらく重い過去とつながる伏線だったという脚本には恐れ入る。仕置人の正体が田村だったという結末自体は、ある程度予測できたが、「すみません」の台詞が重大なキーワードになっていたことに気付いた瞬間には鳥肌が立つ思いがした。
本作は序盤こそ軽いタッチのドラマに見えたが、次第にテーマが重くなってきており、それに伴って役者の演技で魅せる場面も増えている。今回は、仕置人ではないかと疑われた井沢が取調室で東堂と対峙し、本人にしかわからないように真犯人のヒントを伝えたシーンが秀逸だった。
井沢は25年前の無差別殺傷事件には動物殺傷の予兆があったのに防げなかったことを引き合いに出し、「あなたはわたしを疑っているんですか」と東堂に尋ねられると、「疑ってますよ」とさらりと言ってのける。東堂は視線を下げて一瞬何かを考えこみ、次の瞬間には呆然としたかのように目を見開き、井沢にまっすぐ視線を向けた。何を考えているのかわからない表情は不気味で、ただ恐ろしい。取調室を去った東堂は床に崩れ落ち、苦しそうな表情を浮かべて涙を流した。リアルタイムで視聴した際には一連のシーンの意味はさっぱりわからなかったが、結末まで視聴し終えてから振り返ると、大変味わい深い。
東堂は当然のことながら田村が25年前の事件にかかわっていたことを知っており、井沢との会話を通して、「自分が仕置人ではない以上、田村が真犯人である」との結論にたどり着いた。そして、自分がミハンシステムを立ち上げ、田村をチームに引き入れることさえしなければ、田村を殺人犯にすることもなかったことに気付く。犯罪を未然に防ぐために開発したミハンシステムが、新たな犯罪者を産んでしまったという皮肉すぎる結末。犯罪を強く憎む東堂にとって、受け入れ難い事実であったに違いない。伊藤の演技からは、東堂が抱えるそんな苦悩がよく伝わってきたように思う。
結局、仕置人の正体探しは、田村が拳銃で自殺するという悲しい結末で幕切れとなった。普通のドラマなら最終話かその1話前まで引っ張るような話を第6話の時点で終わらせ、しかも主要キャストが自殺して退場するという展開はかなり異例だ。裏を返すと、この先もうひとつ山場があるに違いない。ミハンチームの物語だけで十分、良いドラマになっているのだから、『絶対零度』の続編にするために無理やりねじ込んだような桜木泉の消息だけで後半を引っ張るのはやめてほしいが、果たしてどんな展開が待っているのだろうか。
(文=吉川織部/ドラマウォッチャー)