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『獣になれない私たち』1~6話まで無駄だった可能性…『カルテット』狙いが失敗

文=吉川織部/ドラマウォッチャー

 新垣結衣と松田龍平がダブル主演を務める連続テレビドラマ『獣になれない私たち』(日本テレビ系)の第7話が21日に放送された。平均視聴率は前回から1.4ポイント減の8.6%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)だったことがわかった。前週は第1話以来、5週ぶりに2桁に復帰したものの、せっかくのチャンスを生かすことはできなかった。

 このドラマは、ECサイト制作会社の営業アシスタントの深海晶(新垣)と、松田演じる会計士・根本恒星を中心に、その周囲で起こる様々なできごとを描くストーリー。晶と恒星による「ラブかもしれないストーリー」という当初の設定はほぼどこかへ吹き飛んでおり、視聴者からの評判も「全然話が進まない」「全体的に話が暗い」「登場人物がほぼ全員クソ」など、さんざんな状況だ。

 ただ、第7話ではようやく話が大きく動いた。言いたいことをぐっと飲み込み、いつも周囲に気を遣って疲れ果てていた晶が、とうとう「いい人」であることをやめたのだ。優柔不断な彼氏・花井京谷(田中圭)にきっぱりと別れを告げ、会社ではなんでも引き受けるのをやめ、半ば強引に後輩に仕事を任せるようになった。それとともに表情も生き生きとし始め、ようやくガッキーらしい笑顔が見られるようになった。視聴者からも「今日のガッキーはかわいい」「やっぱり笑ったガッキーはかわいい」といった声が上がった。

 一応ことわっておくが、「ガッキーがかわいければそれでよい」と言いたいわけではない。初回の時点では、心身ともに限界まで疲れ果てたOLの演技が真に迫っていたため、「女優として、こういう新路線もありかもしれない」と大いに期待した。だが、残念ながら第2話以降の新垣の演技にはワンパターンな表情と違和感のある感情表現が目立ち、お世辞にも「うまい」とは言えなかった。ドラマファンとして、いずれまた「かわいいいだけじゃないガッキー」に挑戦してほしいとは思うが、とりあえず今回はもう「かわいいガッキー」に戻っていいんのではないかと思う。

 話を戻すが、晶がようやく自分の殻を破ったことで、視聴者もやっと胸のつかえがとれたようなスッキリ感を味わうことができた。それはいいのだが、「せいぜい3話あたりでここまで話を進めておくべきではなかったか」という気がしてならない。

 なぜこんなにも展開が遅く、一向に話が進まなかったのかについては想像するほかないが、第7話にもヒントは隠されていた。それは、「恒星さんは余計なことを言いすぎ。私は言わなすぎ」「私たち、誰の人生を歩いてきたんだろうね」など、視聴者の印象に残る台詞を登場人物に言わせようとする脚本家の意図が随所に見られたことだ。すでに一部視聴者の間でも指摘されているが、今作の脚本を手掛ける野木亜紀子氏は、おそらく『カルテット』(TBS系)のような会話劇をやってみたかったのだと思われる。途中までストーリーがあまり進まず、中盤以降に急展開する構成も、同作に似ているといえないこともない。もしこの推測が正しいとすれば、新垣結衣と松田龍平による「ラブかもしれないストーリー」と銘打ってラブコメディかのように宣伝した戦略そのものが間違っていたことになる。

 もし、今作がOLを中心としたリアルな群像劇、もしくはOLが困難にぶつかりながら人間的に成長していく様を描くドラマとして当初から視聴者に受け止められていたなら、今よりはまだ理解されていたように思えてならない。

 さて、第8話は、京谷の元カノ・長門朱里(黒木華)が晶の会社に面接に来たり、恒星の兄が逮捕されたりと、いろいろ波乱が起こるようだ。ようやく普通のドラマらしくなってきたが、逆に「1話から6話までの無駄な時間はなんだったんだろう」との思いは深まる。
(文=吉川織部/ドラマウォッチャー)

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