NHK大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』の第3話が20日に放送され、平均視聴率は前回から1.2ポイント増の13.2%(ビデオリサーチ調べ/関東地区)だったことがわかった。第3話は、後に日本人初のオリンピック選手となる金栗四三(中村勘九郎)が故郷の熊本を旅立って東京高等師範学校に進み、スポーツ愛好会「天狗倶楽部」とマラソンに出合うまでを描いた。
金栗はまだ天狗倶楽部の全貌を知らないが、第1話から見ていた視聴者は、彼らがとんでもなくおバカでやたらと熱い、いや暑苦しいバンカラ集団であることを知っている。この前提があるゆえに、金栗と天狗倶楽部の遭遇は、視聴者にとって「東京になじめない純朴な青年が、とんでもなくチャラい奴らと出会ってしまった瞬間」として印象付けられる。初回については、「時代が行き来してわかりにくい」との批判も多かったが、今のところ第2話も第3話も、壮大なプロローグとして描かれた第1話の内容を生かした脚本になっているといえよう。
ただ、第3話のストーリーそのものが次回以降への「つなぎ」の要素が大きく、特に何かが起きたというほどのものではなかった。視聴率こそ前回より上昇したが、まだまだ様子見の視聴者が多い第3話としては、少し引き付けるものが弱かったかもしれない。前回は笑えた中村勘九郎の冷水かぶり(とカメラワークによる股間隠し)も、毎回やられては少々しつこさを感じる。
そんななか、前回「圧倒的ヒロイン感」があるとして絶賛を集めた綾瀬はるかは、今回もまた見せ場をひとりでさらった。金栗の幼なじみ・春野スヤを演じる綾瀬は、夏休みの帰省を終えて東京に戻る金栗を見送るため、猛スピードで自転車をこいで蒸気機関車と並走し、彼にエールを送る。地面を一切見ず、車窓の金栗にまっすぐに視線を送りながら自転車を走らせ、さらに大声で台詞を言うというこのシーンは、本物のSLの運行に合わせて一発撮りされたものだという。このシーンについては事前の番宣で知っていたが、本編を見てあらためて「綾瀬はるかはホントに何やってもすごい」と感嘆させられた。
ちなみに綾瀬演じる春野スヤは、ちょっと変わり者だが頭がよくて運動神経も優れたお嬢さまとして劇中で描かれている。よく言えば純朴、悪く言えばかなり抜けている金栗と、どのように結ばれていくのか、そしてどんな夫婦になるのか、今から楽しみだ。
『いだてん』は大河ドラマとしては異例の作品であるため、叩こうと思えばいくらでも叩けるし、現にそうした声や記事も少なくない。だが、偉そうなことを言うようだが、宮藤官九郎はよくやっていると思う。ほとんどの人が知らない「金栗四三」という人物を題材にするだけで、かなりのハンデである。しかも、近現代は資料が豊富であるため、創作できる要素も少ない。そんななかで、ビートたけし演じる古今亭志ん生の高座風景や、若き日の志ん生(森山未來)の歩みを織り交ぜながら、物語をテンポ良く紡ぎ出し、「無名の人物に視聴者の興味を向ける」という課題に真っ向から取り組んでいる。
こういう言い方は良くないが、大河ドラマだと思わず朝ドラだと思えば、第3話のようにいまいち盛り上がらないゆるい回があっても許せるのではないだろうか。今回の大河ドラマ、食わず嫌いではもったいない。
(文=吉川織部/ドラマウォッチャー)