窪田正孝が主演を務める連続テレビドラマ『ラジエーションハウス~放射線科の診断レポート~』(フジテレビ系)の第11話が17日に15分拡大版で放送され、平均視聴率は自己最高を更新する13.8%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)だったことがわかった。数字だけ見れば「月9ドラマ復活」といってよい。
このドラマは、レントゲンやCTで病変を写し出す放射線技師・五十嵐唯織(窪田)が「病の写真家」として、目には見えない患者の病気を見つけ出し、命を救っていく医療ドラマだ。彼には、院長しか知らない秘密がある。それは、実は医師免許を持っていること。幼い頃に甘春杏(本田翼)と交わしたある約束を守るため、優秀な放射線科医でもある正体を隠し、杏が勤める甘春総合病院であえて技師として働いている。だが、肝心の甘春本人はその約束を覚えておらず、幼なじみであったはずの五十嵐のこともまったく記憶になかった――というのが大まかな設定だ。
前回は、うつ病で療養中の前院長・甘春正一(佐戸井けん太)について、「うつ病ではなく低髄液圧症ではないか」と五十嵐が指摘したところでエンディングを迎えた。これを受けて最終回は、いよいよ五十嵐が医師であることを明かして正一を救うカタルシス満点の展開になるものと期待されていた。
ところが、そんな期待は見事に裏切られた。放送後、ネット上には「今までのどの回よりもつまらなくてショックを隠せない」「最終回まで楽しく観てたのに残念な終わり方」「なんだこれ? 感すごかった」といった批判コメントが相次いだ。
予告編映像でも話題を呼んだ、慣れない手術に動揺と緊張を隠せない杏に「代わります。僕がやります」と五十嵐が言葉をかける最高にかっこいいシーンは確かに本編でも流れたが、あとはこれといった見せ場なし。ほとんどの視聴者は五十嵐が天才的な技術で正一の病気を治していく手術シーンを期待していたはずだが、五十嵐が「持ってるんです。医師免許も」と、ついに白状して周囲が騒然となったところでCMに突入。CMが明けたと思ったら、なんと手術は終わっていた。これはひどい。一応、あとから杏の回想として五十嵐の手術シーンがわずかに描かれたが、期待していた盛り上がりにはほど遠いものだった。
結果的に正一の病気を救う話は序盤であっさりと片がついてしまい、あとは五十嵐の身分に関する話をだらだらと繰り広げただけ。五十嵐に裏切られたように感じた技師たちがよそよそしい態度を取ったり、話を聞きつけたマスコミが「技師が治療行為をしたのは医師法違反ではないか」と病院を追及したり、甘春総合病院に医師を派遣している大学病院が「秩序を守らない人間を処分しない限り、派遣を取りやめる」と迫ったりと、各所で問題が起きるのだが、はっきり言って話がくどいしおもしろくない。15分延長の拡大版だったため、どんなに濃い話が繰り広げられるのだろうと思っていたら、内容はスッカスカ。「医療ドラマはどこに行ったんだよ」とツッコミを入れる視聴者もいた。
五十嵐は、「これ以上この病院にいると、迷惑がかかる」と病院を去ることを決意。かねて招かれていたアメリカ行きを決断する。ドラマとしてはありがちだが、脚本の穴が大きすぎた。和久井映見演じる現院長の大森渚は、五十嵐を問題視する大学病院の教授らには威勢よくタンカを切って逆らったのだが、マスコミ対応を全然していないのだ。「治療行為をした技師は医師免許を持っており、何も問題ありません」と発表すればいいだけなのに、まったく問題を解決しようとしない。そのため風評被害が広がり、患者は減る一方。五十嵐が働く放射線科も検査のキャンセルが相次ぎ、毎日開店休業状態。これでは、五十嵐が病院に居づらくなるのも無理はない。五十嵐を病院から去らせるための脚本の都合上で、大森が無能な院長になってしまっているのだ。これはいただけない。
エンディングはさらにひどかった。空港行きのバス乗り場に向かった五十嵐を追って医師や技師らがそろいもそろって病院を抜け出し、彼を見送りに行くというベタすぎる展開。ベタなのはいいが、明らかに勤務中なのにどうなっているんだろうか。最後まで五十嵐によそよそしかった技師たちが、手のひらを返したように見送りに来るのも不自然極まりない。ドラマとしては、その心情の変化を描くべきではないのか。
五十嵐と杏との関係もモヤッとしたまま。五十嵐は杏に「僕はあなたとの約束を守るために、あなたに会いに来ました」と、ふんわりしたことしか告げず、どんな約束だったのかは明かさない。そんなわけのわからないことを言われた杏は、一瞬ハッとした表情を浮かべる。とうとう昔の記憶を取り戻す展開が来るか、と思いきや、発した言葉は「私、絶対に負けませんから」。なんだそれは。受け答えとしてあまりにもおかしい。さすがに本田翼も台詞の意図を理解できなかったのか、この場面はあまりにも演技がつたなかった。
結局、五十嵐は最後まで昔の約束のことを杏に明かさなかった。杏に「必ず戻ってきてください」と言われたことで、新たな約束ができたから昔のことはもう言わなくていいのだという。そうであれば、なぜ最終回まで引っ張ってきたのか。杏の記憶は戻らないままだし、原因不明の頭痛も解決されていない。視聴者からも「伏線を回収しないで、続編をやる気なのが見え見え」「フジテレビのダメなところが出た」「これだけ強引に『シーズン2やるよ。隙さえあれば映画化も狙うよ』って終わり方されると、ちょっと引くなあ」などと、揶揄する声が聞かれた。最終回の脚本を手掛けたのは原作者の横幕智裕氏のようだが、結果的に大失敗だったといえる。原作がまだ連載中であるがゆえに、ドラマとしてうまく着地させることができなかったのだろう。
案の定、本編終了後、24日に「特別編」を放送することが発表された。期待する声も大きいが、高視聴率に気をよくしたフジテレビが欲をかいてやらかしそうな悪い予感もしている。
(文=吉川織部/ドラマウォッチャー)