「4番・DH」として出場した中村は第1打席、1死一、二塁の場面で、大声援に包まれ、そして自身のテーマ曲「暴れん坊将軍」の音楽に送られながら、バッターボックスに入った。すると、レフト前タイムリーヒットを放ち、勝負強さを見せつけた。満面の笑みを浮かべた中村は、一塁ベース上から、昨年DeNAに在籍したナイジャー・モーガンのパフォーマンスである「Tポーズ」をベンチに向けて送った。ベンチ内では、一軍時と同様にバットを構えるポーズを再三再四見せていた。
2打席目はショートゴロに終わったが、最後の打席とわかっていたスタンドからは大拍手が起こり、中村もヘルメットを取り、手を挙げて応えていた。
この日の観客は、ファームとしては異例の2376人を数え、内野スタンドには立ち見の観客が出る大盛況。背番号「99」のユニフォームを身に着けたファンも大勢おり、観客の多くのお目当ては中村だった。
2打席で退いた後は、バットをグローブに持ち替え、ベンチ内でスタンバイ。回と回のインターバルに、ルーキー外野手・関根大気のキャッチボールの相手をするなど精力的に動いた。
試合終了後、ファーム最終戦のため、セレモニーが行われ、大村巌・二軍監督がスピーチ。最後に、今季限りで引退するケビン・モスカテルが胴上げされた。観客からは「ノリもしてもらえ」という声も飛んだが、実現はせず。中村は裏方スタッフなどと記念撮影をした後、ベンチ裏へと消えていった。
これが現役最後の勇姿となってしまうのか。中村自身は現役続行を模索しているが、トライアウトには出ない予定だという。なぜなのか。その理由について、スポーツライターは次のように話す。
「トライアウトは、出る前にほとんど結果が決まっています。いくらトライアウトで打ちまくろうが、合否にはあまり関係がありません。事前に球団と選手の間でだいたいの話はついていて、形式上受けるケースが多いのです。トライアウトをきっかけに入団が決まる選手もいますが、少数です。だから、中村が受けても見せ物になるだけで終わる可能性が高く、惨めな思いをするだけなのです。過去にも、タイトルを獲得したような大選手は受けていません。今岡誠が阪神タイガースを解雇された時にトライアウトを受験しましたが、その際に岡田彰布元監督が『なぜ阪神は今岡にトライアウトを受けさせるのか』と怒ったほどです。あまり意味のあるものではないのです」
今後、中村を獲得する球団は現れるだろうか。
「フリーエージェント(FA)の選手や外国人、ドラフトなどで補強ポイントが埋まらなかった場合に、手を出す球団がないとはいえませんが、いずれにしても、かなりの長期戦になるでしょう。正直、可能性はかなり低いと言わざるを得ない状況です」(同)
中村の厳冬が始まる。
(文=編集部)