東京と地方を行き来する「2拠点生活」は実際どれぐらいお金がかかる？40代独身女性の場合

　コロナ禍のテレワーク加速により都会から地方に移り住む人が増えているが、「完全に移住するのはハードルが高い」と感じる人も多いだろう。都会暮らしを続けながら、地方の良さも味わうにはどうすればいいのか。

　40代独身の高橋佳子さん（仮名）は、都会と地方の2つの場所を拠点にする「2拠点生活」というライフスタイルを楽しんでいる。月の半分を東京で、もう半分を京都で過ごしている高橋さんが2拠点生活を選んだ理由とは――。

2拠点生活を始めるために必要な準備

　東京生まれ東京育ちである高橋さんが昔から憧れていたのが「田舎での生活」だ。

「都会は忙しなく、自然も少ないですよね。インターネットやスマートフォンが普及してからは特に情報過多の生活となり、時間に追われるようになりました。効率、効率と生産性を高めることが重要視され、感情や感覚、人生の歓びなど、人としての自然な姿を排除している気がしてならなかったんです」（高橋さん）

　見知らぬ人の相談相手となる電話カウンセラーに長年携わってきた高橋さんにとって、コロナは一つのきっかけとなった。リモート相談も可能となり、オフィスに通勤しなくても仕事はこなせる。

「コロナになってから、それまで付き合っていた友人との関係性が変わり始めたことで、これまでの人間関係に縛られず、新たなコミュニティや環境に身を置きたいと思いました。そして、カウンセラーという仕事は、時にマイナスな感情に自分が引っ張られるケースもあります。相手の気持ちに寄り添うには、自分が落ち着ける環境をつくることが重要です。都会と田舎を行き来する2拠点生活をすると、気持ちが切り替わることに気づきました」（同）

　現在は月の半分を東京で過ごし、もう半分を京都で過ごしている高橋さんは、2拠点生活を始めるため、いくつかの準備をした。

「まず、オンラインでの移住相談に申し込みました。自然の豊かなところがいいと大雑把に伝えると、親身にいろいろ聞いてくれて、ピックアップされたのが京都府の綾部市でした。移住してゲストハウスをしているご夫婦を紹介されたんです。実際に足を運び、綾部市のイベントに参加して、地元の方や移住者の日常を実際に自分で見聞きし、自分が住んだら……と少しずつイメージがつかめました。何も知らないときは、『ソトコト』（地方のことがたくさん掲載されている雑誌）を読み、『関係人口』という言葉を知って、移住だけじゃなく、さまざまな関わり方があっていいんだと思いました」（同）

「関係人口」とは「その地域と多様に携わる人々」を指す。定住者ではない地域外の人材が地域づくりの担い手となることもあり、高橋さんのような2拠点生活者も含んでいる。

情報収集より重要な現地でのコミュニケーション

「居住場所を決める前に、移住した起業者が主催したイベントで地元の方とバーベキューを楽しみました。多くの方と知り合いになり、おいしいものを食べたり美しい場所に案内してもらったりするうち、地方に住みたい気持ちが強くなっていきました」（同）

　その地が自分に合っているか否かは、ネットや雑誌からの情報収集ではわからない。

「興味を持った場所に出向き、地元の方とコミュニケーションを取ることが重要です」（同）

　さらに、高橋さんは自治体の移住相談を利用した。地域おこし協力などの募集があれば「自治体の仕事をしながら給与ももらえるので、一石二鳥です」という。

　2拠点生活により、都会生活だった頃のストレスは消え去った。頭がクリアになり、新しいアイデアが次々と浮かんできた。

「地元の方のお手伝いをして、いただいた新鮮な野菜を食べるのが楽しいですね。2拠点生活を始める前は『やっていけるのか』と不安もありましたが、実際に行ってみると、そのままの自分を受け止めてくれることを感じました」（同）

1カ月の生活費増は「約4万円」

　最後に、2拠点生活の資金面について聞いてみた。

「東京に住まいがあるので維持費や固定費がかかります。もちろん交通費は自己負担です。仕事は都会に比べて少ないものの、人と人とのつながりから生まれる仕事が楽しいです」（同）

　2拠点生活では都会と地方を行き来するため、交通費の負担は増える。高橋さんの場合、東京と京都の行き来に月3万円強かかるという。また、京都での宿泊費（1万円）もあわせると、増えた負担は月約4万円になる。

「家庭を持つ人や定職者だとお子さんの事情もあり難しいですが、独身でパラレルワークをしていれば最適です。何より、人間としての幅が広がった気がします」（同）

　月々わずか4万円の経費で新たな人生が楽しめる「2拠点生活」。その最大の魅力は「新しい友人とともに地域おこしをする」点である。

（文＝井山良介／経済ライター）