親の介護は、誰にとっても大きな問題だ。介護をしている人の10人に1人は40歳未満の現役世代であり、20~30代もいずれは直面することになる。しかし、悩みの種となるのが費用の問題だ。
介護は何年続くかわからないため、「できるだけ費用を抑えたい」というのが多くの人の偽らざる気持ちに違いない。親が遠距離に暮らしている場合、「呼び寄せて同居介護や近距離介護をしたほうが低予算で済みそう」と考えがちだが、そうばかりとはいえないという。
『親の介護で自滅しない選択』(日本経済新聞出版社)の著者で介護・暮らしジャーナリストの太田差惠子氏は、「同居や近居には盲点もある。遠距離介護のほうが費用を抑えられるケースもある」と語る。
「同居介護が一番の親孝行」は間違い?
同居介護や近距離介護には、どういう盲点があるのか。まず、太田氏は「“親の孤独感”という見落としがちな問題がある」と指摘する。
「『親と同居するのが一番の親孝行』と思い込んでいる人がいますが、実はそうとも限りません。住み慣れた土地を離れ、友だちも知り合いもいない場所に行くのは、高齢者にとってはかなり大変なことです。介護の現場でヒアリングをすると、それがよくわかります。子どもが『親孝行できている』と満足する一方で、新たな土地になじめずにさびしい思いをしている親が多いのです」(太田氏)
呼び寄せて同居すると、子どもが会社勤めなどの場合、親は日中ひとりきりで過ごすことになる。近くに知り合いがいればいいが、いなければ孤独感は強まるだろう。また、ほかに同居する家族がいる場合は、孤独感に加えてストレスも生まれやすくなる。
かつては同居介護が当たり前だったため、「一緒に暮らせば親も喜ぶ」と思い込んでいる人も多いかもしれない。しかし、思わぬ落とし穴もあるのだ。
遠距離介護の最大のメリットとは?
一方、遠距離介護はどうか。飛行機を利用するような遠方に行かなければならない場合は、当然ながら費用の問題が出てくる。それによって二の足を踏んでいる人もいるはずだ。
確かに、遠距離介護には費用に加えて「何かあったとき、すぐに行けない」という不安もある。しかし、太田氏は「遠距離介護には、そのデメリットを上回るメリットがある」と言う。
「何より、遠距離介護の最大のメリットは、親も子も、今まで通りの環境で暮らせること。しかも、親は介護保険や公的なサービスを使いやすいといえます」(同)
介護保険とは、国民全員が40歳になった月から加入して保険料を支払い、介護が必要な人が適切な介護サービスを受けられるように支える仕組みのことだ。
たとえば、介護保険には「訪問介護」といって、ホームヘルパーに来てもらうサービスがある。利用者の体に直接接触して行う身体介護と、掃除や洗濯などを行う生活援助に分かれている。同居介護や近距離介護の場合は「介護者がすぐそばにいる」という理由から、原則、生活援助は利用できない。
一方、介護者が遠くにいる遠距離介護の場合は、生活援助も利用できる。また、遠距離介護には「介護施設を利用しやすい」というメリットもある。