防災業務計画では派遣にあたって次のような基準がある。
1) 関係機関への情報提供のために情報収集を行う必要がある場合
2) 都道府県知事などが要請を行うことができないと認められるときで、直ちに救援の措置をとる必要がある場合
3) 人命救助に関する救援活動の場合など
通常、大規模災害時には多くの部隊が「自主派遣」の形で現場に急行し、後日、都道府県知事から正式な要請文書を受け取り、結果的に「一般派遣」になることが多い。
一般派遣にこだわる神奈川県
神奈川県の黒岩祐治知事は16日、一連の報道を受け、次のように謝罪した。
「まず、事実として、自衛隊の給水車が到着していた中で、柔軟に、給水をお願いするなどの対応ができず、速やかな給水ができませんでした。被災された町民の皆様には心よりお詫び申し上げます」
そのうえで、一連の経緯を次のように説明した。
「10月13日の午前1時ごろ、山北町から『今後、断水のおそれがあり、自衛隊の給水支援要請を県に行うことになるかもしれない』との連絡が、県(災害対策本部の統制部)にありました。その後、午前6時過ぎに、町から県に対して、自衛隊の派遣要請についてファックスで依頼がありました。
一方、自衛隊の災害派遣要請を判断する基準として、『緊急性』『非代替性』『公共性』の3つの原則があります。県は、今回の台風を迎えるにあたり、県企業庁の給水車の準備を行っていました。
そのため、自衛隊災害派遣の3原則に照らし、他に取りえる手段がないという、『非代替性』の条件を満たさないため、すでに準備を整えていた県の給水車を優先させる、との判断をしたものです。また、県から要請がない中で、自衛隊の給水車が町に到着したことになりますが、その事実を知った自衛隊から、撤退の指示が出されたと承知しています。
事実として、自衛隊の給水車が到着していた中で、柔軟に、給水をお願いするなどの対応ができませんでした。速やかな給水ができなかったことは真摯に受け止めたいと思います」
上記の知事の説明では、県から要請がないことを知った自衛隊が撤収したことになっている。これでは自衛隊側の「自主派遣であった」という主張と食い違う。県はどうしてここまで一般派遣にこだわるのかまったくわからない。また被災自治体が必要性を訴えているのに、現場に情報連絡員も派遣していない県が何を基準に「非代替性がない」と判断したのだろう。
神奈川県には災害時に出動できる大規模な陸上自衛隊の駐屯地がない。仮に県が自衛隊に出動を要請することになっても、東京都の朝霞駐屯地、静岡県の駒門駐屯地、山梨県の北富士駐屯地などから派遣することになり、情報伝達に時間をとられれば、部隊の到着は遅れる。
山北町は、山梨県と静岡県の県境に所在していて、駒門駐屯地とは従前から連絡を取っていたという。あえて神奈川県がそれを仲介する必要があったのか。災害は自治体や自衛隊、そして被災者に一分一秒を争う判断を迫り続ける。黒岩知事や県の防災担当者に的確な判断力があったのか疑問は尽きない。
(文=編集部)