安倍首相宅などに火炎瓶
しかし、確認書を交わしたにもかかわらず、合意通りに実行されなかった。それどころか8月30日、逆に佐伯秘書に対する恐喝容疑で小山氏は逮捕された(9月21日に不起訴)。
怒った小山氏は、指定暴力団「工藤会」系の高野組・高野基組長に依頼して、2000年6月から8月にかけて、安倍氏自宅などに4回も火炎瓶を投げさせた。その事件から3年後の03年11月、小山氏や高野組長ら数名が逮捕された。裁判の末、小山氏は懲役13年、高野組長は懲役20年(余罪あり。現在も服役中)の判決が確定する。
ジャーナリストの山岡俊介氏は、最初にこの事件の追及を始め、次いで同じくジャーナリストの寺澤有氏も取材を開始。2人は共同で取材することもあった。
第一次安倍政権が発足する直前には、共同通信社がこの事件を報じる予定だったが、社内で大議論の末、寸前のところで出稿を見合わせた。
このときに共同通信が記事を配信すれば、安倍政権は誕生していなかった可能性が高い。
事態が急変したのは、服役していた小山氏が昨年2月に出所し、5月に山岡俊介氏と寺澤氏に連絡してきたことによる。出所した小山氏を山岡・寺澤両氏が直接取材すると、存在することは確実とされていたが現物は確認されていなかった「確認書等」3通を小山氏が見せた。それを撮影し、2人は公開したのだ。
山岡氏は、自身が運営するニュースサイト「アクセスジャーナル」で連日、報道した。一方、確認書類3通も載せて寺澤氏は、電子書籍『安倍晋三秘書が放火未遂犯とかわした疑惑の「確認書」』(インシデンツ)を発表した。
ここ数年、騒がれていた森友学園疑獄、加計学園疑獄は「忖度」が問題になった。しかし、「桜を見る会」では安倍晋三事務所が直接、関与していたことが問題視されている。
そしてそれを上回る“直接性”を持つのが、この「火炎瓶事件」だ。安倍氏が暴力団につながる人物と直接面談し、「確認書」を交わすという前代未聞の大スキャンダルである。
国会ですべて明らかにすべきであろう。
(文=林克明/ジャーナリスト)