韓国が、11月4日に行われた安倍晋三首相と文在寅大統領の対話を無断撮影していた可能性が浮上している。
安倍首相と文大統領は、東南アジア諸国連合(ASEAN)の会議に出席するために訪問していたタイ・バンコク郊外で約10分間の対話を行った。日韓の首脳が着席して対話したのは、2018年9月にアメリカ・ニューヨークで行って以来で約1年1カ月ぶりとなるため、注目が集まった。
ただし、この接触は事前に予定されていたものではなく、ASEAN+3(日中韓)による首脳会議に先立ち、安倍首相が控室に入った際、待ち受けていた文大統領の呼びかけで実現したとされている。また、時間も約10分と短く、具体的な中身には乏しいのが実情だ。元徴用工訴訟に関して双方の主張が平行線をたどっている状況に変わりはなく、戦後最悪と言われる関係改善に向けて前進したとはいいがたい。
そして、韓国政府は大統領府の公式ホームページで両首脳が白いソファに座って言葉を交わしている写真を「文大統領が日本の首相と歓談」と発表する一方で、日本の外務省は文大統領との対話について紹介していないことが伝えられていた。外務省の報道官が語っている通り、日本としては「正式な会談ではなかった」という立場だからだ。
両国の温度差が浮き彫りになるなか、対話の写真について、「産経ニュース」が11月8日付記事で「韓国側が日本側に無断で撮影、公開していた」「韓国側は両首脳の接触から写真撮影、速やかな公表まで周到に準備していた節がある」と報じた。記事によると、安倍首相は控室にいた10人の各国首脳と順番に握手をし、その最後が文大統領だったという。流れ上、その文大統領から話を持ちかけられれば、無下にするという選択肢が取りづらいことは想像にかたくない。
「そのため、今回の韓国のやり方については一部で『待ち伏せや不意討ちに近い』『事実上の騙し討ちだ』などの声も上がっています。いずれにしろ、韓国が日本と接触し、その成果をアピールしたいという意図は明らかで、韓国の野党からは『短い歓談を大きく誇大包装』『曲解を誘発する過剰解釈』との声が上がっており、国内の一部では『屈辱外交だ』との反発もあるようです」(韓国情勢に詳しいジャーナリスト)
日韓関係が悪化する原因となったのは、昨年10月に韓国大法院が日本企業に賠償を命じる判決を下した徴用工問題だ。判決から1年がたつが、韓国側が差し押さえた日本企業の資産を売却する動きが伝えられるなど、事態は泥沼化しつつある。
「徴用工問題をめぐっては、国会議長の文喜相氏が日韓の企業および個人から寄付を募り、元徴用工らの補償に充てる案を示しましたが、日本側はおろか韓国の原告側からも『侮辱だ』と非難されるなど、いわば詰めが甘い感が否めません。日本との関係改善を急ぐ韓国の出方を見極めるにあたって、直近の試金石となるのが11月22日に失効が迫るGSOMIA(軍事情報包括保護協定)の扱いでしょう。米国の圧力に屈して破棄を撤回するのかどうか、ひとつの焦点となりそうです」(同)
先行き不透明な日韓関係は、この先どうなるのだろうか。
(文=編集部)