花粉症ゼロで支持を集めてきた、東京都の小池百合子知事がピンチに陥っている。2016年の都知事選で小池都知事が打ち出した政策はいくつかある。そのうち、評判のよかった政策はことごとく頓挫もしくは停滞した。残った政策メニューのなかで、支持率回復が期待できるのは花粉症ゼロぐらいしかなかった。
東京都が花粉症対策に乗り出したのは、石原都政からだ。当時の石原慎太郎都知事が、花粉症に罹患。そのつらさから、花粉の少ない森づくりに取り組むようになった。福祉保健局が医療面から、産業労働局が森林管理という観点からアプローチを開始。特に林業面からのアプローチでは林業の振興に旗を振り、多摩産材の積極的な活用を進めた。
林業振興では東京都のみならず23区内も呼応。区内の小中学生に林業体験というかたちで多摩山林の間伐や植林を体験してもらうプログラムなどを導入して、林業に親しみと関心を持たせた。こうした取り組みは小さな一歩ではあったが、それでも林業に着目したことは大きな成果でもあった。
春先に襲来するスギ花粉は、全国各地から飛散する。なかでも多摩山林からの花粉量は莫大で、東京都民を苦しめている主因とされる。東京都は多摩山林のスギを間伐し、新たに花粉の飛散量が少ないスギや無花粉のスギに植え替える事業を進めてきた。それは、石原都政が終了した後も変わらない。あとを受けた猪瀬直樹、舛添要一の両元知事も花粉症対策を引き継ぐが、目立った動きは見られなかった。
2016年に就任した小池都知事は、この路線を継承しつつも政策のネーミングを「花粉症ゼロ」へと変更し、たちまち都民から大きな支持を受ける。
しかし、「小池知事は林業に対する知見はない。知事就任後も、特に林業に興味を抱いている素振りは見られない」(東京都職員)という。つまり、花粉症ゼロを単なる人気取りに利用したということになる。
林業との兼ね合い
花粉症を減らすための林業政策は、50年単位の長期的な視点を必要とする。そう簡単に花粉症ゼロを達成することはできないのだ。なぜなら、無花粉スギへの植え替えは、水源涵養の観点から少しずつ進めるしかない。スギの木をすべて伐採すれば、東京都は水不足に陥る。それは、花粉症以上の災禍を招く。林業関係者は言う。
「林業振興を目的とする森林環境譲与税が今年度から始まっていますが、現場では盛り上がっているような印象はありません。多摩産材をはじめ国産材を活用する気運は、きわめて低調です。林業政策がきちんと進まなければ、花粉症ゼロも意味がありません。というか、花粉症ゼロと林業政策のことを結び付けて考えている林業関係者は少ないように思います。ほとんど関心はないと思いますよ」
花粉症薬、保険適用外化の動き
一方、医療面での花粉症対策はどうなっているのか。これも、後手に回っているといわざるを得ない。医療制度は東京都だけではどうにもならない。新薬の開発や保険制度などは厚生労働省が所管している部分が大半を占めるからだ。
「医療面では、花粉症予防の啓発やキャンペーンなどしか打つ手がない。東京都だけで取り組める事業には限界がある」(東京都福祉保健局職員)
このほど、健康保険組合連合会が花粉症薬を保険適用外にすることを提言した。これが大きな反響を呼んでいる。花粉症は今や国民病ゆえに、小池都知事の「花粉症ゼロ」は熱狂を呼ぶほどの支持を得た。まだ提言段階だが、花粉症薬の保険適用外が現実化すれば、患者の金銭的な負担は一気に重くなる。
小池都知事は、なんとか五輪関連政策で支持率回復につなげようとしている。それもトライアスロン会場の水質問題やヒートアイランド化問題が顕在化し、事前に謳われた“アスリートファースト”とは大きくかけ離れた実態が明るみになるにつれ、支持率上昇にはつながらない公算が大きくなっている。
残された支持率浮揚のチャンスは花粉症ゼロぐらいしかない。水面下では来年夏に実施される都知事選への動きが始まっている。果たして、小池都知事に再選の目はあるだろうか。
(文=小川裕夫/フリーランスライター)