「業務スーパー」のフランチャイズ(FC)店舗運営会社の社長が、会社の預金口座から従業員の賃金の原資となるお金を勝手に引き出したうえに音信不通となり、賃金が不払いになる可能性が浮上している。労働組合によれば、この社長は毎月、数百万円の役員報酬を得ていながら、会社資金の私的流用を重ねて経営を悪化させ、従業員のボーナス減額や倒産を行おうとしていたという。社長による会社資金の持ち逃げを受けて、従業員たちが給料の原資を確保するために自ら経営と店舗運営に乗り出すという異例の事態となっている。
騒動が起きているのは、北海道で業務スーパーの「すすきの狸小路店」「苫小牧店」「苫小牧東店」「室蘭店」「岩見沢店」「滝川店」「旭神店」の計7店舗を運営するFC店舗運営会社。。労働組合によると、同社社長は以前から、会社の経費で自家用の外車を購入したり、自宅の家事代行サービスを利用したり、私的にタクシーを利用したりしていた。資金繰りの悪化を受けて社長が従業員のボーナス減額を行おうとしたため、従業員は今年2月に労働組合を結成。会社側は交渉の場で「資金繰りが悪化したので会社を倒産させたい」「そのため従業員を解雇したいので協力してほしい」などと説明していた。
労働組合のサポートをしている東京東部労働組合の須田光照書記長はいう。
「以前から実態としては経営や現場の運営などは従業員だけで行っているため、従業員側は役員に対し全員退任して経営を自分たちに渡してほしいと要求してきましたが、社長は拒否の姿勢を見せています。そして業務スーパーの事業自体は売上も利益も出ているにもかかわらず、役員の高額な役員報酬や社長の一存で続けている食品輸入事業の赤字に利益が吸い取られ、経営が悪化しています。そこで組合としてストライキに入ったという経緯です。
ちなみに社長は組合との団体交渉が続いているさなかにも、個別の従業員に対して『ボーナスを上げるので協力してほしい』などとメールで連絡して働きかけを行っており、これは労働組合法に違反する行為です」
従業員に給料が支払われない可能性
会社側の対応に抗議するため、従業員は今月18日から上記7店舗でストライキを敢行。そのさなか、25日の給与支払い日を目前に社長は会社の口座にあった資金をほぼ全額引き出し、音信不通状態になっているという。前出・須田氏はいう。
「労働組合は社長に対して賃金を支払うことを確約するよう要求書を送付しましたが、無視されており、従業員に給料が支払われない可能性が出ています。そのため、従業員は給料の原資を確保するためにストライキを中断し、24日から店舗の営業を再開させました。ですが、社長は業務スーパーの本部に対して勝手に破産の方針を伝えてしまったため、本部からの商品の入荷はストップしたままであり、在庫がなくなれば再び休業となる可能性があります。また、もし25日に給与が支払われなければ、刑事告訴含めて法的手段の検討を進めることになります」
業務スーパーの概要
2000年に兵庫県三木市で1号店がオープンした業務スーパーは、22年には国内1000店舗を達成。積極的にメーカーを買収して生産能力を拡大させ、自社で企画・製造するオリジナル商品を拡大。国内に25拠点の食品加工工場を構え、さらに世界に約350の協力工場を持つことで圧倒的な低価格を実現し、急成長を遂げてきた。多くの店舗をフランチャイズ形式で運営し、業務スーパーは商品とノウハウの提供に注力することで低コスト経営を実現。運営元の神戸物産の業績も好調で、2023年10月期連結決算の売上高は前期比13.5%増の4615億円、営業利益は同10.4%増の307億円、経常利益は同6.7%減の300億円と、その成長に衰えは見えない。ちなみに神戸物産の時価総額は1兆円を超えており(18日終値ベース、以下同)、これは大手百貨店の高島屋(4789億円)を大きく上回り、三越伊勢丹ホールディングス(1兆2802億円)に迫る金額だ。
業務スーパーで特徴的なのが、安価かつ大容量な商品の数々。その店名ゆえに「業者向けのスーパーで一般客も購入できる」というイメージが強いが、現在ではお客のうち業者と一般客が占める割合は1:9と一般客のほうが圧倒的に多いとされる。業務スーパーの人気を支えるのが、オリジナル商品だ。1Lサイズの紙パック入りデザート類や大容量の冷凍肉、お徳用レトルト食品などが多数、取り揃えられている。
(文=Business Journal編集部)