神戸物産が展開する「業務スーパー」で販売されていた「ミニロールケーキ」で基準値以上の添加物(「プロピレングリコール」)が検出されたとして、保健所は25日、使用基準違反にあたるとして食品衛生法に基づき同社に対して回収命令を発出した。当該商品はこれまでに約1万4000個が全国の店舗に出荷されている。業務スーパーは販売する食品について今年1年間だけで29件もの自主回収を実施。回収の理由は、一括表示に記載のない添加物の検出や基準値を超える残留農薬の検出、虫体の混入、硬質異物の混入、賞味期限切れ食品添加物の使用など。大手の小売りチェーンにしては自主回収の頻度が多いとの指摘もあり、業務スーパーで扱われている食品の安全性に疑問が広がっている。
2000年に兵庫県三木市で1号店がオープンした業務スーパーは、昨年には国内1000店舗を達成。積極的にメーカーを買収して生産能力を拡大させ、自社で企画・製造するオリジナル商品を拡大。国内に25拠点の食品加工工場を構え、さらに世界に約350の協力工場を持つことで圧倒的な低価格を実現し、急成長を遂げてきた。多くの店舗をフランチャイズ形式で運営し、業務スーパーは商品とノウハウの提供に注力することで低コスト経営を実現。運営元の神戸物産の業績も好調で、2023年10月期連結決算の売上高は前期比13.5%増の4615億円、営業利益は同10.4%増の307億円、経常利益は同6.7%増の300億円と、その成長に衰えは見えない。ちなみに神戸物産の時価総額は1兆円を超えており(29日終値ベース、以下同)、これは大手百貨店の三越伊勢丹ホールディングス(6076億円)や高島屋(3433億円)を大きく上回る金額だ。
業務スーパーで特徴的なのが、安価かつ大容量な商品の数々。その店名ゆえに「業者向けのスーパーで一般客も購入できる」というイメージが強いが、現在ではお客のうち業者と一般客が占める割合は1:9と一般客のほうが圧倒的に多いとされる。業務スーパーの人気を支えるのが、オリジナル商品だ。1Lサイズの紙パック入りデザート類や大容量の冷凍肉、お徳用レトルト食品などが多数、取り揃えられている。
「安全管理体制が備わっていない」との指摘も
その業務スーパーが販売する「ミニロールケーキ」で基準値以上の添加物が使用されていたことが発覚。本件を含め業務スーパーでは今年1年だけでも以下のとおり計29件もの自主回収が行われている。
(12月)
・ふんわりミニロールケーキ ブルーベリー風味
(基準値以上の添加物が検出)
・白身魚でつくったザクザク網春巻き」
(表示に記載のないアレルゲン検出)
・ショコトーネ
(安息香酸が検出)
(11月)
・ひとくちがんも
(表示に記載のないアレルゲン検出)
・本格四川火鍋(麻辣ベース)
(一部商品でカビが検出)
・ハニーバターポップコーン」「キャラメルポップコーン」
(使用できない添加物が検出)
・銀の胡麻ドレッシング ※他社製品
(一部商品が膨張)
(10月)
・いちごグミ・ぶどうグミ・オレンジグミ
(一括表示に記載のない添加物が検出)
・ソフトワッフル ヘーゼルナッツチョコクリーム
(一括表示に記載のない添加物が検出)
・グリーンアスパラ(ホール)
(一部商品で基準値を超える残留農薬が検出)
(9月)
・混ぜるだけ ビビンバの素
(一括表示に記載のない添加物が検出)
(7月)
・低塩本醸造しょうゆ1L ※他社製品
(保存料の添加量基準の超過)
・ブルダックトッポッキスナック
ブルダックトッポッキスナック(上記と別商品)
トッポッキスナック
(一括表示に記載のない添加物が使用基準を超えて検出)
(6月)
・パラタ(プレーン)
(一部商品に虫体混入)
(5月)
・つけ麺スープ 濃厚魚介しょうゆ味
(殺菌不良の商品混入の可能性)
・ごぼうにんじんミックス
(一部商品に硬質異物混入)
・冷凍いちご
(一部商品で基準値を超える残留農薬が検出)
・サジージュース
(一部商品で発泡が確認)
・燻豆腐干(燻り豆腐)
(一括表示に記載のない着色料が検出)
(4月)
・冷凍団子6種類 ※他社製品
(賞味期限切れ食品添加物の使用)
(3月)
・メキシカンホットソース
(使用できない添加物が検出)
(1月)
・グレープモラセス
(一括表示に記載のない着色料が検出)
業務スーパーは「徹底した品質管理システムのもと、すべての安全基準をクリアしたものだけが販売されています」(同社HPより)として安全管理に力を入れていることを宣言しているが、小売業界関係者はいう。
「大手の小売チェーンでは考えられないほど自主回収の頻度が多く、業務スーパーで食品を買うのは危険だと消費者に思われても仕方がないレベル。大半が自社製造品か直接仕入れる協力工場で製造された商品とみられるが、自主回収の原因や頻度を見る限り、大手小売企業であれば当たり前に確立されているはずの安全管理体制が備わっていない。企業としての安全・品質管理への意識の低さがうかがえる」
珍しい違反例
今回の業務スーパーで起きた事案について、実践女子大学名誉教授の西島基弘氏はいう。
「プロピレングリコールは着色料や香料などの添加物の溶剤としても使用されています。カビや細菌の静菌作用に注目して保存料としても使用されています。保湿性、湿潤性を持つことから、生めんなどの品質改良剤としても許可され使用されています。使用の基準値は、生めん、いかくん製品では2.0%以下、シュウマイ、春巻などの皮では1.2%以下、その他の食品では0.60%以下です。今回の違反は、その他の食品ですので0.60%以上検出されたということになります。%オーダーの許可なので、毒性はほとんどありません。どの程度オーバーしたかは分かりませんが、基準値を少し上回った程度では健康障害は起きません。しかし、食品衛生法の基準をほんの少し上回った場合でも、回収命令はもちろん廃棄命令等の罰則があります。珍しい違反です。
ベトナムから輸入された洋菓子とのことですので、ベトナムの輸出業者が日本の食品衛生法を知らなかったことも考えられます。一般には日本の輸入業者は輸入する前に先行調査といい、当該商品について先に少量を取り寄せて日本の基準値に合致するかを確認しています。国によっては、輸出品を相手国の基準値に合致するかを確認してから輸出するようにしている国もあるようです」
自主回収にあたり神戸物産は「大変お手数をおかけいたしますが、商品をお持ちのお客様は問い合わせ先までご連絡もしくは送料着払いで商品をご送付いただきますようお願い申し上げます」。同社は商品を返送した人に対し商品代金相当のクオカードを送付する。
【問い合わせ先】
株式会社神戸物産 お客様相談室
〒675-0063 兵庫県加古川市加古川町平野125番1
TEL:0120-808-348(午前9時~午後5時 土日・年末年始を除く)
「安さ」だけでは消費者の信頼・支持を得続けることは困難
当サイトは業務スーパーの品質管理問題について10月3日付記事で報じていたが、以下に改めて再掲載(一部抜粋)する。
――以下、再掲載――
小売りチェーン関係者はいう。
「商品回収が多いということは、それだけ発売後の商品の品質チェックを入念に行って、問題が見つかれば隠さずに正直に公表して対応しているという証しでもあり、一概に『多いから悪い』ともいえない。ただ、ここまで回数が多いと、消費者としては『業務スーパーの食品は本当に買っても大丈夫なのか』と安全性に懸念を持っても仕方ない」
なぜ業務スーパーでは商品回収が多く発生しているのか。流通ジャーナリストの西川立一氏はいう。
「他の大手流通チェーンに比べて、商品回収の頻度が多いように思います。業務スーパーのオリジナル商品はアジアやヨーロッパをはじめとする海外の工場・メーカーからの直輸入が多く、なかなか監視の目が行き届きにくいという面はあるでしょう。発売前にどこまで現物を検査しているのかはわかりませんが、すべての商品の中身を検査することは不可能なので、検査が不完全になっている可能性もあるでしょう。
業務スーパーは安さを売りにする小売チェーンですが、食品の取り扱いにおいて品質の安全性確保は最優先すべきであり、多少のコストがかかっても取り組むべき事柄です。今の消費者は『安さ+安心・安全』を求めており、『安さ』だけでは消費者の信頼・支持を得続けることはできません」
(文=Business Journal編集部、協力=西島基弘/実践女子大学名誉教授)