旧ビッグモーターの存続会社で主に不正請求問題の補償業務などを引き継いだBALM(バーム)は22日、保険金の水増し請求に関する全件調査を打ち切ると発表した。6万件以上とされる不正請求事案について、バームと損害保険会社の間で不正請求の精算が完了したのは、わずか約1700件で、全体の2.6%にとどまっている(22日付「朝日新聞」記事より)。精算がほぼ手つかずの状態でバームが調査を打ち切ることで、損保会社が契約者の正確な被害金額を把握できずに返金すべき金額を確定させることは難しくなるため、バームの決断に批判が広まっている。
旧ビッグモーターの中古車買取・販売などの主要事業を買収した伊藤忠商事、同社子会社で燃料商社の伊藤忠エネクス、企業再生ファンド・ジェイ・ウィル・パートナーズは5月、新会社・WECARS(ウィーカーズ)を発足させ経営体制を刷新して事業を開始。不正問題に関する損害賠償などの対応はバームが引き継ぎ、旧ビッグモーター社長だった和泉伸二氏が社長に就いている。
旧ビッグモーターから保険金の水増し請求を受けていた損害保険ジャパン、三井住友海上火災保険、東京海上日動火災保険、あいおいニッセイ同和損害保険の大手損保4社は自主的に調査を行い、これまでに計6万件の不正を確認。だが、バーム側の対応の遅れにより不正請求の精算は進まず、全体の約3%止まり。ほぼ手つかずといっていい状況のなか、22日にバームは全件調査の打ち切りを発表。23日付「日刊自動車新聞」記事によれば、バームは損保4社に対して、裁判所の調停を通じた協議も検討している旨を通知したという。
「バームは人的リソースなどの都合で、損保会社が不正があったと認定した事案をすべて個別に精査して補償すべき金額を算出することは“やりたくない”と判断したということ。これによって、個別の事案について契約者に支払うべき正確な補償金額の算出はできなくなり、損保会社側は契約者に一律で補償を支払うか、自動車保険契約の等級を元に戻すといった対応を行うことになるとみられる。その原資はビッグモーターが損保会社に支払う補償金であり、その金額を裁判所の調停で協議するということだが、損保側としてもバームに倒産されると困るので、結局は“バームが払える金額”を4社の不正件数の割合に応じて各社で按分するようなイメージになるのでは。
損を被った契約者へのより正確な補償という意味では望ましくはないが、損保会社側としても数万件におよぶ事案について1件1件、補償金額を算出して支払うというのは非常に手間なので、バーム側から調査を打ち切られたというのを理由にして一律で補償するかたちになったほうが、都合が良い面はあるかもしれない」(大手損保会社社員)
「損保ジャパンは不正の協力者という色合いが濃い」
ビッグモーターの不正をめぐっては、損保ジャパンの関与も焦点となった。損保ジャパンは長年にわたりビッグモーターに出向者を送り込み、損保会社に提示する事故車の修理代見積もりを高く見せかけるための指南をしたり、自社の保険契約者の事故車をビッグモーターに優先的に斡旋するなどしていたとされる。また、昨年にはビッグモーターによる不正請求の発覚を受けて損保会社各社が同社との取引を停止するなかで、損保ジャパンのみが取引を再開し保険契約シェアを拡大。大手損保3社が協議を行いビッグモーターに対し調査委員会設置を提案する方向で調整していたところ、突如として損保ジャパンが協議から離脱していたこともわかっている。金融庁は損保ジャパンと親会社SOMPOホールディングスに業務改善命令を出し、SOMPOの桜田謙悟会長兼グループ最高経営責任者と損保ジャパンの白川儀一社長は辞任に追い込まれた。
「損保会社のなかでも損保ジャパンとそれ以外の会社では事情が違ってくる。損保ジャパンはビッグモーターの被害者というよりは、不正の協力者という色合いが濃く、裁判所の調停で補償についてどのような決着となるのかが注目される」(同)
(文=Business Journal編集部)