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不正発覚のダイハツ、「ビッグモーターより悪質」の声も…時代遅れの経営体質

文=Business Journal編集部、協力=桑野将二郎/自動車ライター
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不正発覚のダイハツの本社
ダイハツ工業本社(「Wikipedia」より)

 認証試験における不正が発覚し、全車種について出荷停止措置が取られているダイハツ工業。第三者委員会の報告書によると、不正行為は174個、全64車種に及ぶ。一番古いもので1989年の不正が認められたが、全体の傾向としては2014年以降に不正の件数が増加しているという。

 また、同報告書によると、不正は現場レベルにとどまり、管理職が不正を指示もしくは黙認するといった組織的な不正行為が実行・継続された事実は認められなかったとしている。

 組織的ではなかったとはいえ、長年にわたり、認証試験に使う試作車について、市販車とは異なる加工を施し、認証試験を確実に通るように細工していわたけで、監督庁のみならずユーザーをも欺き続けてきたといえる。ちなみに、不正は大きく以下の5つに大別されている。

(1)エアバッグのタイマー着火の不正加工
(2)試験結果の虚偽記載
(3)試験速度の改ざん
(4)タイヤの空気圧の虚偽記載
(5)助手席頭部加速度データの差し替え

 ダイハツの一連の不正について、自動車ライターの桑野将二郎氏に話を聞いた。

――ダイハツ不正の一番の問題点はどこにあるとお考えでしょうか。

桑野氏「問題点を拾い上げ始めると非常に多岐にわたると思いますが、一番の問題点は『ダイハツのガバナンスがうまく効いてなかった』ということに尽きると思います。

限られた時間、限られた予算、限られた人材、限られた環境の中で、より良く、より安く、安全な自動車づくりを――。一見なんの問題も感じないかもしれませんが、より良いモノづくりを安くあげようとするこの方向性自体がすでに古いですし、日本の企業が世界の中で後れをとっている経営思考の問題点を象徴しているかのように感じています」

――親会社であるトヨタ自動車のプレッシャーが要因のひとつ、という報道がありますが、トヨタの子会社になる前から不正が続いていたことが判明しています。それでも、トヨタが悪いといえるのでしょうか。

桑野氏「トヨタの圧力が問題なのではなく、ダイハツ側の経営責任によるものが大きいですよね。現場の開発者がコンプライアンスに反してまでスケジュールや予算を優先しなければならなかったという点にフォーカスすべきで、自動車メーカーとして守るべき事の優先順位がおかしくなってしまったのは、親会社の圧力うんぬんではなく、現場と一緒により良いモノづくりをできなかったダイハツ経営陣の考え方、現場の声を聞けない、許さない社風が、大きな原因だったのではないかと考えています。

 これまで個人的にもダイハツ社員の方々の声をたくさん聞いてきましたが、真摯に良いクルマを愛し、自社のクルマづくりに熱意を持っている方、そして勉強熱心な方が多い印象を持っています。残念ながら、そういった社員が開発の過程で『もっと時間を使いたい、もっと予算を使いたい』と上司に相談しても、会社の了承を得るためには本業の手を止めてまで取り組まなければならない仕事が増えるばかりで、評価はされない。結局は、諦めて妥協をしているという話もよく聞きました。

 そうした旧態依然のマネジメント態勢とルールづくりが、不正せざるを得ない企業体質を醸成してしまったのではないか。そしてこのような問題は、日本の多くの企業にとって他人事ではないのではないかと考えています」

――自動車業界全体を俯瞰した際、ビッグモーターよりもダイハツのほうが悪質性・重大性が高いとの声がありますが、いかがでしょうか」

桑野氏「人の命を乗せて走る自動車にまつわる問題という点で、どうしても比較されがちですし、社員がコンプライアンスを侵してまでも優先すべき社内の掟みたいなものがあった、という面では共通点があるのかもしれません。

 ただ、ビッグモーターの事件は自動車販売会社による事件で、保険料などの利益を不正に得ることが主たる問題でした。一方で、自動車を製造するメーカーであるダイハツの事件は、自動車の開発製造そのものに関する不正問題です。『どちらが悪質か』『どちらが重大か』などと簡単には比較しにくいですが、消費者への影響や日本の自動車産業の今後の在り方などを考えると、今回のダイハツの不正問題はかなり重大であることは間違いないでしょう。

 新車の製造販売において、国の機関が定める規定をクリアするために実施される試験で、認証不正を行ってしまったダイハツ。自らの組織改革を進めるとともに、今回の件を糧にして業界全体へ問題定義できるような、国内メーカー同士の協調といったようなものが見られることも期待したいところです」

――ダイハツの不正は、ダイハツならではの事情があるのでしょうか。もしくは、ほかの企業でも起こり得るものなのでしょうか。

桑野氏「最近よく聞かれる話だと思いますが、もはや『良いモノを安く』という時代ではありません。『良いモノを適正価格』であるべきなのですが、日本の多くの企業がいまだそうでないのは、多くの消費者も気付いていることでしょう。

 モノづくりの基準が何を根拠に定められているのか、古い体質の効率化をいくら突き詰めても、時代にそぐう良品は生み出しにくいのが実情だと思います。価格にばかりプライオリティを置いてしまいがちな現代の日本人が、今一度、価値や文化というものを見直す機会になれば良いのですが……」

――ほかに、今回の問題に関連して、ご見解をお聞かせください。

桑野氏「令和になってから自動車、建築、家電など業界を問わず、共通した問題点にフォーカスされる不正が続いているように感じます。昔ながらの企業体質とか、時代にマッチしない取り決めなど、世界においていかれる“昭和なニッポン企業”の残り香が、新しい世代の経営者たちにより払拭され、刷新されていくことを願うばかりです。それは、もしかすると政治も同じかもしれませんね」

――ありがとうございました。

 ダイハツの不正を「自動車史上最悪の不祥事」と断罪する専門家もいる。ダイハツの販売再開はまったくメドが立っておらず、影響は広がり続けている。ユーザーのみならず、ダイハツに部品などを納入しているサプライチェーンにも甚大なダメージが出る可能性もある。ダイハツの経営陣は、真摯に過ちに向き合って体質を一新する責務があるだろう。

(文=Business Journal編集部、協力=桑野将二郎/自動車ライター)

桑野将二郎/自動車ライター

桑野将二郎/自動車ライター

1968年、大阪府生まれ。愛車遍歴は120台以上、そのうち新車はたったの2台というUカー・ジャンキー。中古車情報誌「カーセンサー」の編集デスクを務めた後、現在はヴィンテージカー雑誌を中心に寄稿。70~80年代の希少車を眺めながら珈琲が飲めるマニアックなガレージカフェを大阪に構えつつ、自動車雑誌のライター兼カメラマンとして西日本を中心に活動する。
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