「やはり、そうなるか」――
トヨタ自動車が3月1日に発表した役員体制の変更を聞いて、子会社ダイハツ工業の社員は肩を落とす。トヨタがダイハツの次期社長として奥平総一郎トヨタ専務役員を送り込むことを決めたからだ。背景には、ダイハツよりもスズキを優先したいとのトヨタの思惑も見え隠れする。巨大自動車メーカー・トヨタを前に、ダイハツはその存在意義を問われることになる。
トヨタとダイハツは、トヨタの奥平専務役員が4月1日付けで退任、ダイハツの顧問となり、6月の定時株主総会とその後の取締役会で社長に就任する役員人事を発表した。ダイハツ現社長の三井正則社長は代表権を持つ会長となる。
2016年1月29日、トヨタがダイハツの完全子会社化で合意したと発表した際、トヨタの豊田章男社長は記者会見で「ダイハツブランドは絶対になくさない。(トヨタとダイハツは)同じ目線で互いに任せるところは任せ、得意なところはそれぞれがリードして共通の戦略とスピード感を持ってやっていく」と、トヨタとダイハツとはパートナーであるとの姿勢を示していた。そして昨年8月、トヨタはダイハツを完全子会社化したが、それから1年も経ずにダイハツの三井社長は経営の第一線から退くことになった。
実は三井氏は13年にダイハツ生え抜きとしては21年ぶりに社長に就任したが、三井氏以前はトヨタ出身者が続いていた。トヨタに取り込まれることを恐れるダイハツプロパーの役員や社員にとって、三井氏は「期待の星」だった。
豊田社長は「トヨタはもともとアライアンスが上手な会社ではない。それはトヨタの上から目線と(取引先との)下から目線に原因がある」と認識しており、完全子会社化したダイハツでも、プロパー社長である三井氏を尊重する姿勢を示していた。
ダイハツよりスズキを重視
状況が大きく変化したのは昨年10月。トヨタは、ダイハツのライバルであるスズキとの業務提携に向けて検討することで合意したからだ。トヨタとスズキは今年2月6日には、環境技術や自動運転などの先進技術、商品・ユニットの相互補完などの提携を早期に具体化することで合意した。
トヨタとスズキの提携で、最も障害になるのがダイハツの存在。トヨタとスズキの業務提携に向けた覚書には、相乗効果が見込まれる軽自動車に関する協力に触れていない。「ダイハツとスズキを合計した軽自動車の国内シェアは60%以上で、軽自動車分野での提携を含めると独禁法に抵触するおそれがある」(全国紙記者)ことが理由とみられる。
軽自動車でガチンコライバルであるダイハツを抱えるトヨタが、スズキとの提携をスムーズに進めるためには、ブランドとしてのダイハツは残しても、ダイハツ社内の不平や不満を抑えてトヨタ側が完全にコントロールする必要に迫られる。このため、ダイハツのトップに再びトヨタ出身者を据えることになった。「下請け扱い」や「ダイハツよりスズキを重視するトヨタの姿勢」に落胆するダイハツ社員も少なくない。
ダイハツ完全子会社化のメリットについて、「(トヨタ、ダイハツともに)もっといいクルマが出ることが成果。従業員、販売店、仕入先、地域社会が笑顔になることに尽きる」と話していた豊田社長。少なくともダイハツ側が笑顔になる日は遠い。
(文=河村靖史/ジャーナリスト)