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ダイハツ不正、調査報告書の内容が「ブラック企業あるある過ぎる」と話題

文=Business Journal編集部、協力=鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役
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ダイハツのHPより

 完成車の試験不正に伴い出荷停止を実施するダイハツ工業。その不正の内容もさることながら、20日に公表された第三者委員会による調査報告書で指摘されている、不正発生の原因とされる同社の組織としての問題点や社風が「あまりにブラック企業あるある」「日本企業のほとんど、この状態」などと話題を呼んでいる。なぜダイハツは不正行為が当たり前になるほどの組織になったのか、また、ダイハツが抱える問題は同社のみならず多くの日本企業が共通して抱えるものなのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

 今回発覚した試験不正の内容は悪質だ。エアバッグの試験ではセンサーが自動で衝撃を感知して作動させなければならないところ、タイマーで作動させて試験を実施。ヘッドレストの衝撃に関する試験では認証申請に運転者席側の試験結果が必要だったところ、過去に計測した助手席側の数値を届け出。自動車側面の衝突に関する試験では、不合格となる壊れ方にならないよう事前に車体の裏側から切り込みを入れる小細工を実施。衝突時の助手席の頭部の加速度を計測する試験では、試験で得られたデータの代わりに事前に用意した別のデータを提出。ちなみにエアバッグ試験での不正が発覚した車種で改めて試験を実施したところ、一部の車種でドアロックの安全性能が法規に適合していない可能性があることが判明しているが、20日に行われた記者会見で奥平総一郎社長は「現時点で事故や問題が発生したという情報はない。自分としては、今まで通り安心して乗っていただければ」と発言している。

 事の発端は内部告発で発覚した、海外向け車種の試験の認証手続きでの不正だ。ダイハツは4月に第三者委員会を設置し、他の車両でも不正が行われていたのかを調査し、5月には小型SUV「ロッキーHEV」とトヨタにOEM供給する「ライズHEV」で不正があったとして生産を中止することを発表。今月20日には第三者委員会による調査報告書が公表され、不正は国内で生産している全28車種で確認され、25の試験項目で174件にもおよび、1989年から34年間にわたり続いていたことがわかった。親会社のトヨタ自動車に販売する車種やマツダやSUBARUにOEM供給する車種でも不正が行われており、ダイハツは26日までに国内の全工場の生産を停止する。

 不正の件数は、軽自動車販売台数で首位の座をスズキに明け渡した2014年から急増していたというが、全国紙記者はいう。

「16年にトヨタ自動車の完全子会社となったことが大きい。海外、とくにアジア市場でのトヨタグループとしてのシェア拡大という重責を担うようになり、ダイハツの年間販売台数はトヨタグループ全体の約1割を占めるほどになった。その一方でトヨタをはじめとする他社メーカーへの供給も重なり、ヒト・時間あらゆるものが不足し、そのしわ寄せが現場にのしかかっていた。その意味ではトヨタの責任も重大だ。現在の奥平社長をはじめ、1998年にトヨタの連結子会社となって以降、ダイハツ会長・社長にはトヨタ出身者がつく慣例となったが、ダイハツの社内事情を把握しないままトヨタの都合で物事を進めてきた側面もあるのでは」

「何か失敗があった場合には、部署や担当者に対する激しい叱責や非難が見られる」

 そのダイハツの不正の原因として第三者委による報告書で指摘されているのが、同社の組織としての問題点だ。具体的には以下のような内容だ。

<過度にタイトで硬直的な開発スケジュールの中で車両の開発が行われるようになった。開発の各工程が全て問題なく進む想定のもと、問題が生じた場合の対応を行う余裕がない日程で開発スケジュールが組まれ、仮に問題が生じた場合であっても開発期間の延長は販売日程にまで影響を及ぼすことから、当初の開発スケジュールを柔軟に先送りすることは到底困難というのが実情であった。>

<結果的には最後の工程である認証試験にしわ寄せがくる実情があった。「認証試験は合格して当たり前。不合格となって開発、販売のスケジュールを変更するなどということはあり得ない。」というような考えが強く>

<現場任せで管理職が関与しない態勢
管理職が認証試験の実務や現場の状況に精通しておらず、また、報告や相談を行っても認証試験の担当者が抱える問題の解決が期待できない結果、現場の担当者レベルで問題を抱えざるを得ない状況が生じた>

<認証試験の担当者が絶対合格のプレッシャーに晒され、現場レベルでの解決を迫られる状況になったとしても、業務に対する適切なチェックが行われる状況であれば、不正やごまかしによる解決は困難であるが、特に衝突安全試験の領域は職場環境がブラックボックス化しており、不正がごまかしを行っても見つからない状況にあった。>

<認証制度自体が極めて専門的であったところ、人員削減により法規認証に精通した人員が不足している状況であり、教育研修体制も不十分であった。>

<(編注:内部通報制度である)「社員の声」制度に寄せられた通報のうち、2022年では実際に調査に至った案件の約6割程度は、事案が発生している部署に調査を依頼する形で運用されている。また、匿名通報者の場合は、連絡先を把握している場合であっても、匿名通報は信憑性が低いという考え方等から結果通知を行わない運用が行われている。>

<ダイハツの経営幹部は、不正行為の発生を想定しておらず、法規認証業務において不正が発生する可能性を想定した未然防止や早期発見のための対策を何ら講ずることなく短期開発を推進した。その結果、短期開発の強烈なプレッシャーの中で追い込まれた従業員が不正行為に及んだ>

<現場と管理職の縦方向の乖離に加え、部署間の横の連携やコミュニケーションも同様に不足している>

<「できて当たり前」の発想が強く、何か失敗があった場合には、部署や担当者に対する激しい叱責や非難が見られる>

<全体的に人員不足の状態にあり、各従業員に余裕がなく自分の目の前の仕事をこなすことに精一杯である>

<書類に虚偽の情報や不正確な情報を記載してはならないという当たり前の感覚を失うほどコンプライアンス意識が希薄化していった>

 これを受け、SNS上では以下のような声があがり議論を呼んでいる。

<日本経済がなぜ衰退したのか、なぜ仕事の効率が悪いのかが端的に示されていて興味深い>

<身に覚えがありすぎ>

<日本中の大企業・中企業がこれ>

<ほぼ全ての企業でこの傾向あるし。。完全に日本の企業風土の問題な気もする>

<だから誰も報連相なんてしなくなる>

 大手IT企業に勤める30代中堅社員はいう。

「プロジェクトで問題が発覚したり、今後問題になりそうなことが見つかっても、それを上に言うと『なんでそんなことになるのか』と頭ごなしに怒られたり、経緯や対策案をつくらされたりして損をするだけなので、現場の担当者の間でなんとか火消ししようとしているうちに問題がドカンと噴火するというパターンは典型的。大企業だと、問題が表面化した際に誰の責任とされるのかは、その時の状況次第ということもあるし、運よく表面化しないというケースもあるので、現場の担当者全員が『このままだと、いつかは大事になるだろうな』と思っていても放置してしまうという現象が生まれる。『こうすればもっと改善できるのでは』という提案も、『だったらお前がやれ』と言われ余計な仕事を増やされるだけだし、『これまでのやり方を否定するのか』と反感を買うリスクもあり、言うだけ損。そうやって現場に無理を押し付けることで成果をあげてきた人ばかりが会社から評価され、昇進して管理職についているので、いつまでも改善は期待できない」

 また、大手電機メーカーに勤める40代管理職はいう。

「ダイハツは他社製品のOEM供給を広く手掛けていたということだが、他社からの受託の場合、スケジュールの遅れが許されなかったり、短納期での開発・生産を強いられがちなので『なんとしても納期に間に合わせる』ということが至上命題になる。もしスケジュールを後ろ倒しにすると、延びた期間にかかる人件費を満額で顧客から追加でもらえることは少なく、赤字が発生する。かといって十分な品質を保ちつつスケジュールを無理に間に合わせようとすると追加で人を投入しなければならず、これも赤字になる。結果として『手を抜く』ということが生じる。大企業は上からの評価が全てで、マネージャー層としては自分が担当した案件で大きな赤字が出ればマイナス評価に直結するので、力業でなんとかしようとして現場に無理がかかり、ダイハツのようなことが起こる。

 ただ、最近では若手社員にこれをやると、簡単に会社を辞めてしまったり、社内のコンプラ窓口に通報したりして面倒なので、以前よりは改善されつつあると感じる。その一方、いまだに昔のやり方が抜けない幹部も多いため、間に挟まれた40代の課長クラスの負荷が増えている」

他ではありえない異常さ

 百年コンサルティング代表取締役の鈴木貴博氏はいう。

「今回判明した不正問題は、一言でいえば異常な問題といえます。他の企業でも類似した要素はないとは言い切れませんが、他ではありえない異常さがその根幹にあります。それは一言でいえば『試験に落ちたら試験官の責任になる』という、少し考えれば誰でもわかるような間違った認識を現場が何十年もの間持ち続けてきたということです。たとえば大学受験を落ちたら本人の責任か、せいぜい広げても家族の責任ですよね。それがダイハツでは試験を実施する部署が責任を持つと考えられていたわけです。ただし、そのような異常な認識がまん延した背景事情を考えると、その点では他の大企業でも起こりうる要素を内包していると思います」

 なぜダイハツでは、このような社風がまん延したのか。同様の問題を抱える企業の共通点とは何か。

「報告書では超短期間で開発を行うというダイハツのビジネスモデルが問題を引き起こした深因だとしています。これは別の言い方をすれば、低コストで安価な車を作り販売するというビジネスモデルでもあります。ダイハツに限らず安く販売することで利益を上げるビジネスモデルの企業では、類似した不正行為がまん延する傾向があるのは事実です。たとえば大手ビジネスホテルが身障者用駐車場を廃止したり、大手量販店が日本では違反となる添加物が入った食品を輸入販売したり、大手百均が著作権を侵害する商品を堂々と売ったりと、高コストにつながる法令順守を現場が軽視する傾向はどの安売り企業にも見られます。

 ただ、ダイハツの場合、コストを下げるために安全を犠牲にしたという点は異常です。報告書によれば試験車両の台数を減らすことが低コスト経営につながるということが、未実施の試験の再試験を省略するという考えにつながったとされていますが、正常な組織ではそのような発想は強く止められるはずです」(鈴木氏)

 では、ダイハツはこのような組織として抱える問題を改善することは可能なのか。

「経営という観点で考えると、この問題は2つの異なる対応が必要です。ひとつはコンプライアンス体制の再構築です。これは旧ジャニーズの事件と同じで『二度とこのようなことが起きない』ことを目的に、試験に関連するオペレーションやチェック基準、関係する人たちの評価基準などをすべて新しい方法に設計変更していく必要があります。

 ただダイハツの場合はもうひとつ深刻なことは、これまで販売してきたかなりの種類の車種に不正試験の疑いの目が向けられている点です。この問題は経営にとっては深刻です。新車販売だけでなく、中古市場でもダイハツの車のオーナーはダイハツ車をまともな価格では引き取ってもらえなくなりますから、損害賠償問題にもなりますし、二度とダイハツは買わないというユーザーが激増する可能性があります。

 ここでトヨタが距離を置いているのが私には不思議です。私がトヨタの経営者なら1000億円規模の資金を投下して、ダイハツの過去現在含めたすべての車種について、独立したかたちで再試験を実施します。トヨタは株主という関係者ではありますが、消費者から見ればダイハツよりも信頼される組織です。トヨタが再試験を行っても法的には何の意味もありませんが、一見無駄なこの試験は、ダイハツに乗る消費者には大きな安心を与えます。仮に再試験に落ちる車種が出たとしたら、それこそ株主としてダイハツにその車種は全台数回収するように要求すれば、さらに消費者は安心するでしょう。

 ダイハツはどうしようもない状況で、経営体制の刷新は不可避ですが、それでブランドがもとに戻ることはないでしょう。報告書が述べている『管理職が現場を知らない』『内部通報をするとデメリットを被る』『不正が起きないように試験プロセスを変更する提案を経営陣が却下』などの事象を読む限り、自浄作用は期待できません。だとすれば、これはトヨタの問題でもあるわけで、トヨタの動きがないことのほうが私には不思議に見えます」(鈴木氏)

(文=Business Journal編集部、協力=鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役)

鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役

鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役

事業戦略コンサルタント。百年コンサルティング代表取締役。1986年、ボストンコンサルティンググループ入社。持ち前の分析力と洞察力を武器に、企業間の複雑な競争原理を解明する専門家として13年にわたり活躍。伝説のコンサルタントと呼ばれる。ネットイヤーグループ(東証マザーズ上場)の起業に参画後、03年に独立し、百年コンサルティングを創業。以来、最も創造的でかつ「がつん!」とインパクトのある事業戦略作りができるアドバイザーとして大企業からの注文が途絶えたことがない。主な著書に『日本経済復活の書』『日本経済予言の書』(PHP研究所)、『戦略思考トレーニング』シリーズ(日本経済新聞出版社)、『仕事消滅』(講談社)などがある。
百年コンサルティング 代表 鈴木貴博公式ページ

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