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ダイハツを不正に走らせた親会社トヨタの強烈プレッシャー…現場の意見を無視

文=Business Journal編集部、協力=ジャーナリスト/桜井遼
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ダイハツのHPより

 完成車の試験不正に伴い出荷停止を実施するダイハツ工業。同社は1998年にトヨタ自動車の連結子会社となり、16年にはトヨタの完全子会社となったが、不正の件数は、14年から急増しており、トヨタに供給する車種の増加やトヨタグループ内でアジア市場開拓という重責を任されたことによる強いプレッシャーが、ダイハツの現場に負荷をかけ不正行為を増長させたという見方も広まっている。

 不正は内部告発で発覚した。海外向け車種の試験の認証手続きでの不正を受け、ダイハツは4月に第三者委員会を設置し、他の車両でも不正が行われていたのかを調査。5月には国内向け車種でも不正が行われていたことがわかり、小型SUV「ロッキーHEV」とトヨタにOEM供給する「ライズHEV」の生産を中止することを発表。今月20日には第三者委員会による調査報告書が公表され、不正は国内で生産している全28車種で確認され、25の試験項目で174件にもおよび、1989年から34年間にわたり続いていたことがわかった。20日に公表された第三者委員会による調査報告書によれば、11年頃から、コスト低減によりダイハツの競争力を高めるという観点から法規認証室の人員が削減され、安全性能担当部署で実機評価を行う人員も大幅に削減。その結果、法規適合性を確認する業務の担当者が認証法規に関する研修を受けないまま業務を遂行したり、「正解が分からない中で資料作成だけを行っており、本当に正しく業務をやっているのか分からないまま進んでいる」(報告書より)という実態があったという。

 試験不正の内容は多岐にわたる。エアバッグの試験ではセンサーが自動で衝撃を感知して作動させなければならないところ、タイマーで作動させて試験を実施。ヘッドレストの衝撃に関する試験では認証申請に運転者席側の試験結果が必要だったところ、過去に計測した助手席側の数値を届け出。自動車側面の衝突に関する試験では、不合格となる壊れ方にならないよう事前に車体の裏側から切り込みを入れる小細工を実施。衝突時の助手席の頭部の加速度を計測する試験では、試験で得られたデータの代わりに事前に用意した別のデータを提出。ちなみにエアバッグ試験での不正が発覚した車種で改めて試験を実施したところ、一部の車種でドアロックの安全性能が法規に適合していない可能性があることも判明している。

 トヨタ、マツダ、SUBARUにOEM供給する車種でも不正が行われており、ダイハツは26日までに国内の全工場の生産を停止。帝国データバンクによると、ダイハツに部品などを供給している取引先企業は8000社以上(一次下請け、二次下請けなど含む)にのぼり、工場での生産中止に伴う影響は大きい。

 20日に行われた記者会見で奥平総一郎社長は「現時点で事故や問題が発生したという情報はない。自分としては、今まで通り安心して乗っていただければ」と発言しているが全国紙記者はいう。

「5月の時点で国内向け車種でも不正が行われていたことを把握しながら、それを公表せずに販売を継続したという判断が適切だったのかは疑問。ダイハツは不正発覚後に1000名以上の技術者を投入して再検査を行っていたと説明しているが、すでに販売された、試験がきちんと行われていない車両が大量に公道を走っていたということであり、再検査で安全上の問題が見つかればリコールするつもりだったという弁明は、完成車メーカーとして許されるのか。また国交省はどこまで把握していたのかが気になる」

親会社トヨタの責任

 そんなダイハツの不正蔓延の背景には、親会社であるトヨタからの強いプレッシャーがあったのではないかという指摘もある。ダイハツは13年以降、トヨタへのOEM供給車を増やしており、今回の不正により出荷停止となるトヨタの車種は22に上る。またトヨタグループ内でアジア市場開拓という重要な役割も任されていた。トヨタの中嶋裕樹副社長は20日の記者会見で「(トヨタへの)供給が増えたことが、現場の負担になっていたと認識できず、反省している」と語っているが、自動車業界を取材するジャーナリスト・桜井遼氏はいう。

「前社長の三井正則氏はプロパーだったが、ダイハツの歴代社長の多くがトヨタからの片道切符の出向者。しかもトヨタ社内で評価が低かった人が少なくない。このため、ダイハツのプロパー社員を下に見て、現場にプレッシャーをかけ続けていたといわれている。今回の不正に関する第三者委員会の調査で、なぜ不正をする前にスケジュールの遅れを上長に言わなかったかを聞かれた社員が『言っても無駄だから』と答えているが、トヨタ出身の社長ら経営陣が現場の意見などに聞く耳を持たないという感覚が社員に染みついていた。

 ダイハツが主力とする軽自動車はスズキが30年以上、市場トップシェアだった。これを打開するため、ダイハツはトヨタによる全面的なバックアップを受けて新型車を相次いで投入するとともに、テレビCMを積極展開。『自社登録』と呼ばれる見せかけの販売台数を積み上げたこともあって、06年度にダイハツがシェアトップを奪取し、その後もトップを堅持してきた。しかし、不正件数が急増し始めた14年は、スズキが『ハスラー』のヒットでシェアトップを奪還した年。トヨタの指示もあって軽市場シェアトップに返り咲くため、新型車を短い開発期間でどんどん投入することを迫られたことから、決められた試験を実施しないといった不正に走ったことは想像がつく。

 さらに、16年にダイハツがトヨタの完全子会社となって、トヨタグループの新興国向け小型車の開発を担当することになると、ダイハツの開発部門の負担は一気に増えた。それまでも『短期開発』の名のもと、開発スケジュールの遅れは一切認められないことから不正に手を染めてきたのに、さらにトヨタの新興国向け小型の戦略車開発まで担当させられることになり、負担が増した。

 それだけではない。ダイハツはトヨタから間接部門の人員削減を迫られたことから、法規認証室の人員を大幅に削減してきた。人手不足と開発モデルの増加、さらに開発スケジュールの遅れが一切許されない状況のなかで、現場の従業員は不正に走るしかない状況に追い込まれたわけで、親会社トヨタの責任は重い」

 気になるのは今回の不正に対するトヨタのスタンスだ。

「トヨタの豊田章男会長は今年4月にダイハツの不正が発覚した際、オンライン記者会見で『トヨタの問題として考え、取り組んでいく』と述べた。しかし、不正の全貌が明らかになった12月20日の記者会見には中嶋副社長が出席し、豊田会長はレースに参加するために出張していたタイから戻ってこなかった。しかも、22日には親会社の代表取締役会長でありながら、レース会場での記者会見だったことからレーシングスーツを着用した姿でダイハツの不正に関して『日本の自動車会社を代表してご心配をおかけして申し訳ない』と謝罪した。

 また、豊田会長はこの会見で、『(ダイハツが)前を向いて自立できるように支援していく』と述べた。トヨタとしてはダイハツが自立するとは考えていないが、立ち直ってもらわなければ困るという事情を抱えている。というのもトヨタは事業をグローバル展開しており、電動化技術に関しても『マルチパスウェイ』を掲げて、電気自動車だけでなくハイブリッド車、水素エンジン車、燃料電池車など幅広く手がけていることもあって、トヨタグループのリソースは不足している。しかもトヨタ自体は低コストが絶対の新興国向け小型車の開発は苦手。このため、この分野に関してはダイハツに全面的に任せたいのが本音で、ダイハツには早く再建してほしいのだ。

 今回の不正に関して、本来なら再発防止策としてダイハツの取締役会に社外取締役が入るなどトヨタグループ以外の目が必要だが、トヨタとしてそれでは完全子会社にした意味がない。同じく不正が発覚した子会社の日野自動車について、トヨタは商用車におけるCASE技術の普及を目指すコマーシャル・ジャパン・パートナーシップ・テクノロジーズ(CJPT)から一時的に除名にしたが(すでに復帰)、ダイハツは除名にしないことにしている。これもダイハツがトヨタグループの事業戦略上、重要な子会社であるからだ。トヨタは当面、再発防止策を進めると見られるダイハツと微妙な距離をとりながら、事態が鎮静化するのを待つ戦略ではないか」(同)

 トヨタグループでは昨年以降、品質問題が相次いで発覚している。連結子会社の日野自動車は昨年8月、エンジン認証に関する不正を過去20年にわたって行っていたことを発表。今年3月、トヨタグループの豊田自動織機は、フォークリフト用エンジンの排ガスに関する劣化耐久試験で法規違反をしていたと発表。今月20日には、北米トヨタがエアバッグのセンサーに不具合が見つかったとして100万台のリコールを発表している。

組織としても問題点

 ダイハツの不正の原因としては、同社の組織としての問題点として第三者委による報告書で以下内容も指摘されている。

<過度にタイトで硬直的な開発スケジュールの中で車両の開発が行われるようになった。開発の各工程が全て問題なく進む想定のもと、問題が生じた場合の対応を行う余裕がない日程で開発スケジュールが組まれ、仮に問題が生じた場合であっても開発期間の延長は販売日程にまで影響を及ぼすことから、当初の開発スケジュールを柔軟に先送りすることは到底困難というのが実情であった。>

<結果的には最後の工程である認証試験にしわ寄せがくる実情があった。「認証試験は合格して当たり前。不合格となって開発、販売のスケジュールを変更するなどということはあり得ない。」というような考えが強く>

<現場任せで管理職が関与しない態勢
管理職が認証試験の実務や現場の状況に精通しておらず、また、報告や相談を行っても認証試験の担当者が抱える問題の解決が期待できない結果、現場の担当者レベルで問題を抱えざるを得ない状況が生じた>

<認証試験の担当者が絶対合格のプレッシャーに晒され、現場レベルでの解決を迫られる状況になったとしても、業務に対する適切なチェックが行われる状況であれば、不正やごまかしによる解決は困難であるが、特に衝突安全試験の領域は職場環境がブラックボックス化しており、不正がごまかしを行っても見つからない状況にあった。>

<認証制度自体が極めて専門的であったところ、人員削減により法規認証に精通した人員が不足している状況であり、教育研修体制も不十分であった。>

<(編注:内部通報制度である)「社員の声」制度に寄せられた通報のうち、2022年では実際に調査に至った案件の約6割程度は、事案が発生している部署に調査を依頼する形で運用されている。また、匿名通報者の場合は、連絡先を把握している場合であっても、匿名通報は信憑性が低いという考え方等から結果通知を行わない運用が行われている。>

<ダイハツの経営幹部は、不正行為の発生を想定しておらず、法規認証業務において不正が発生する可能性を想定した未然防止や早期発見のための対策を何ら講ずることなく短期開発を推進した。その結果、短期開発の強烈なプレッシャーの中で追い込まれた従業員が不正行為に及んだ>

<現場と管理職の縦方向の乖離に加え、部署間の横の連携やコミュニケーションも同様に不足している>

<「できて当たり前」の発想が強く、何か失敗があった場合には、部署や担当者に対する激しい叱責や非難が見られる>

<全体的に人員不足の状態にあり、各従業員に余裕がなく自分の目の前の仕事をこなすことに精一杯である>

<書類に虚偽の情報や不正確な情報を記載してはならないという当たり前の感覚を失うほどコンプライアンス意識が希薄化していった>

(文=Business Journal編集部、協力=ジャーナリスト/桜井遼)

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