「開会式の演出内容は、組織委内でも担当するごく一部の人しか把握していなかった。準備の段階でこれだけゴタゴタがあったので、世間的に酷評される結果になるのは、ある程度予想できていたので、落ち込むムードはない。特にこの1年は“五輪反対”のムードを肌で感じてきたので、職員たちは“敗戦処理”という感じで淡々と仕事をこなしている。五輪が終われば組織委も来年には解散されるが、みんな早く今の仕事から解放されて、元の仕事に戻りたいのでは」(東京五輪・パラリンピック競技大会組織委員会職員)
「もともと約3兆円といわれてきた五輪の総費用が、延期やコロナ対策の影響で4兆円規模に膨らんでいるという報道も出始めているが、組織委が資金不足になった場合は東京都と国が補填する取り決めになっている。つまり“税金で穴埋めする”ということ。今はまだマスコミも国民もメダルラッシュで興奮状態だが、それが冷めれば今度は、そうした負の問題がクローズアップされてくる。競技もすべて無観客で行われ国民はテレビ観戦となり、日本全体が多大な労力と巨額のカネを負担させられた挙句、コロナも重なり1年以上にわたり混乱を極めた。“結局、今回の五輪はなんだったのか”という声は組織委内でも強い」(別の組織委職員)
27個の金メダルを含め、日本としては過去最多となる56個のメダルを獲得するなど、連日の“メダルラッシュ”に沸く東京五輪。
最終日となった8日には、初の決勝進出を果たしたバスケットボール女子が強豪・アメリカとぶつかり、くしくも敗れたものの、男女通じて初のメダル獲得を果たす快挙を達成するなど、最後まで嬉しいニュースが続いたが、同日20時からはフィナーレの閉会式が行われている。
消された「開会式の簡素化案」
五輪の開閉会式をめぐっては、準備着手当初から波乱含みだった。
特に開会式では、2018年に狂言師の野村萬斎氏が演出総合統括に就任したが、20年12月に野村氏を含む演出企画チームは解散となり、野村氏は辞任。代わりに元電通のクリエイティブ・ディレクター、佐々木宏氏が総合統括に就任したが、タレントの渡辺直美を起用した“空から降り立つオリンピッグ”という侮蔑的な企画を提案していたことが発覚し、佐々木氏も辞任。さらに、制作チームのリーダーだった演出家のMIKIKO氏が、組織委の上層部によって辞任に追い込まれていたことも発覚。MIKIKO氏はTwitterで、本人に連絡がないままに別の演出家に交代させられていたことなどを明かした。
開幕が目前に差し迫った7月に入っても、問題が続出。開会式の楽曲担当、小山田圭吾氏(コーネリアス)が過去に雑誌のインタビュー記事で、同級生の障害者に“いじめ”を行っていたことを自慢するかのように告白していたことが発覚し、小山田氏は辞任。
開会式を翌日に控えた22日には、ショーディレクターを務める小林賢太郎氏がお笑いコンビ「ラーメンズ」時代のコントでナチス・ドイツによるユダヤ人虐殺(ホロコースト)をネタにしていたことに批判が広まり、組織委は小林氏を解任処分とした。
「小林氏の解任を受け、組織委の橋本聖子会長が会見で『全体を早急に見直しながら、どのようにしていくかということを早急に協議している』と語ったように、組織委内では開会式のプログラムを入場行進や聖火点火などに絞ったかたちにする案も検討された。ホロコーストという歴史問題にかかわるだけに、組織委上層部の一部が武藤敏郎事務総長に簡素化案を提案したものの、最終的に武藤事務総長の判断で予定通り行うことになった」(五輪関係の取材を行う全国紙記者)
そして迎えた開会式。NHK総合で生中継された番組は平均世帯視聴率56.4%(ビデオリサーチ調べ/関東地区)をマークし、多くの日本人が視聴した一方、著名人からも以下のようなコメントが出るなど、辛辣な評価が目立った。
「金返してほしいですよね。税金からいくらか出ているだろうから。金返せよ。外国に恥ずかしくて行けないよ。いかにバカだったのかわかるでしょうね、日本は」(タレント・ビートたけし/テレビ番組『新・情報7days ニュースキャスター』<TBS系>内で)
「165億円といわれている予算に値するコンテンツと、本当に思ってるんですか? って聞きたい。もう非常に手抜きですよ、すべてが」
「日本国内や海外が求めるような日本の魅力的な面白いコンテンツ、ゴジラ、ロボット、マスコット、何もないんですよ。忍者も侍もない。歌舞伎だって、普通スーパー歌舞伎みたいな派手な演出できるのに、すぐ終わっちゃって。花火だって神宮球場のほうが長い」(テレビプロデューサー・デーブ・スペクター/『サンデー・ジャポン』<TBS系>内で)
「史上初の最低最悪な東京オリンピック開会式。なんと悲しい、淋しい、地味、簡素 想像、飛躍力ZERO オリンピック組織委員会は一体過去8年間に何をしていたのか…開会式が目玉なのに」(タレント・デヴィ夫人/Twitterより)
さらに開会式1週間後の7月29日には「週刊文春」(文藝春秋)が、佐々木氏らによって“排除された”MIKIKO氏のチームによる開会式の台本内容をスクープ。その高いエンターテインメント性や壮大さが注目され、「MIKIKO案の開会式が見たかった」という声が拡大。さらに「文春」報道によって、本番の演出ではMIKIKO氏チームの案の部分部分が“つまみ食い”されていることが公けになり、これが“パクリ”だとして批判を呼んでいる。
「また変なパフォーマンス」
そんななか、8日20時に閉会式がスタート。国旗の入場・掲揚と国歌斉唱後は約30分かけて各国の選手が入場。数時間前に熱戦を追えたばかりのバスケ女子チームのメンバーたちや、女子卓球団体・銀メダルの石川佳純、伊藤美誠、平野美宇、野球・金メダルのチームメンバー・田中将大、森下暢仁、アーティスティックスイミング・デュエット4位の乾友紀子と吉田萌、空手の女子の形で銀メダルの清水希容、スポーツクライミング女子複合・銀メダルの野中生萌、銅メダルの野口啓代などがリラックスした様子を見せた。
入場が終わると、光の動きを多用したプロジェクションマッピングで五輪のシンボルマークが会場上空に映し出されたかと思うと、ムードは一転してステージ上には東京スカパラダイスオーケストラが登場し、演奏を披露。それに合わせて“東京の日曜日の昼下がりの公園”を再現するという設定のなか、数多くのパーフォーマーたちがダンスやボールを使った芸などを展開。世界的に有名なDJ松永のソロパフォーマンスや、アニメ『鬼滅の刃』を用いた演出などが行われたほか、1964年の東京パラリンピックでも披露された坂本九の曲『上を向いて歩こう』が流れるシーンなども見られた。
パフォーマンスは約20分にわたり繰り広げられたが、SNS上では以下のように賛否両論の感想があがっている。
<せっかく光のショーで素晴らしい雰囲気になったのに、また変なパフォーマンスが始まった>(原文ママ/以下同)
<なんだか恥ずかしいわ 見てられない 日本の演出や音楽シーンってこんなの?>
<またよくわからん茶番出はじまるし密の問題で仕方ないんやろけど引きで見ると人がパラパラしててなんやこれという感じ>
<椎名林檎がリオ五輪でやったようなダンスなら演奏とバッチリで綺麗だったのに>
<選手たちちょっと退屈そうじゃない?>
<閉会式なんかぐちゃぐちゃだな>
<しらけるわー。全然面白くないやん。さっさとしょーもないパフォーマンス辞めて下さい。恥ずかしいわ。いつまでやるねん>
<こうやってオリンピック閉会式を見ていると色んな国があるんだなぁって、ディズニーのイッツ・ア・スモールワールドに乗ってるような気分になる>
<奇をてらうこともなく、定番で彩られてなんて真っ当な閉会式なんだ>
<今の映像でもう泣きそう>
<開催されて良かった!こんなに楽しく見れたの初めて!>
「一気通貫的な意思がない」
企業のブランディング・PR戦略などを手掛けるクリエイティブ・ディレクターはいう。
「全体的に“酷い”という印象。“日本の恥をさらした”と評価されても仕方がない。戦いを終えた選手たちが楽しそうな様子で、国をこえて交流して親交を温めるシーンなども見られた入場行進は良かったが、その後、照明が落ちた暗い中で通り一辺倒のプロジェクションマッピングが行われたと思ったら、今度はスカパラの音楽に合わせて多くのパフォーマーたちがバラバラに延々とパフォーマンスをあちこちで続け、“いったい何を見させられているのか”という感想しか持てない。選手たちも動きが止まっているように見えた。
結局、五輪のクロージングとしてこの閉会式で“何を刻みたいのか?”という、演出サイドの一気通貫的な意思がないことが、根本的な原因。開会式と閉会式を通じていえることは、最大公約数的に歌舞伎や祭り、太鼓、今風の音楽、パフォーマンス、ダンス、プロジェクションマッピングなどを“とりあえず全部盛り込みました”として、批判を封じようという姿勢が感じられ、結果的に退屈な内容になってしまっている。
確かに五輪の閉会式は式典的な要素もあり、単純にエンターテインメント的なショーの部分だけを追求できないという難しさがあるのは理解できる。でも、今回のような支離滅裂な内容になってしまうくらいなら、退屈だといわれてもよいから、日本の文化や伝統をしっかりと見せたり、選手にクローズアップしたりと、軸を据えたプログラムにしたほうが、まだよかったのではないか」
また、広告代理店のクリエイターはいう。
「制作チームに各方面から多くの人が参加しているものの、実質的に演出全体を仕切っているのは電通。開会式と閉会式を見て感じるのは、“いかにも電通の仕事”という点に尽きる。電通仕切りとなった時点で、こうなる結果は見えていた」
果たして世論の感想はいかに――。
(文=編集部)