東京オリンピック(五輪)開会式に『ドラゴンクエスト』のメーンテーマは本当に流れるのか――。
そんな話題が22日深夜、立憲民主党など野党関係者内にざわめきのように広がっていた。『ドラゴンクエスト』シリーズ(スクエア・エニックス)は世界中にファンを持つRPG(ロールプレイングゲーム)。ゲームをプレイしたことがない人も、一度は耳にしたことがあるだろう同ゲームのメーンテーマの作曲者は、すぎやまこういち氏(90)だ。
発端は日刊スポーツが22日、記事『五輪開会式演出か? 会場に響く「ドラクエ」テーマ曲、闇夜のドローン大群』を公開したことだった。同社が21日まで国立競技場(新宿区)周辺を取材したところ、入場行進曲として『ドラゴンクエスト』のテーマ曲が流れたのだという。同記事では大会関係者談話として「カムフラージュのためにダミー曲を流すこともある」などとして、実際に開会式でドラクエが流れるのかは不明としている。
すぎやま氏は日本会議のシンクタンクとして「LGBT法案の成立を阻止せよ」などと主張している公益財団法人「国家基本問題研究所」(櫻井よしこ理事長)の評議員であり、いわゆる“保守論壇”で存在感のある人物だ。すぎやま氏の過去の言動を踏まえて、立憲民主党衆議院の尾辻かな子氏(比例近畿ブロック)は以下のように自身のツイッターアカウントに投稿した。
「実際に使われるか不明だ チャンネル桜で杉田水脈氏の『生産性がない同性愛の人達に皆さんの税金を使って支援をする。どこにそういう大義名分があるんですか』に『正論ですよ』と答えた作曲家すぎやまこういち氏を使う?」(原文ママ)
実際に使われるか不明だ
— 尾辻かな子 (@otsujikanako) July 22, 2021
チャンネル桜で杉田水脈氏の「生産性がない同性愛の人達に皆さんの税金を使って支援をする。どこにそういう大義名分があるんですか」に「正論ですよ」と答えた作曲家すぎやまこういち氏を使う?
五輪開会式演出か? 会場に響く「ドラクエ」テーマ曲https://t.co/wjGT3KY1Yq
すぎやま氏はあの杉田水脈氏の「LGBT発言」に同調していた?
尾辻氏の上記の主張は「文春オンライン」(文藝春秋社)が2018年8月5日に公開した記事『杉田水脈に「正論ですよ」 ドラクエ作曲家「愛国発言」を振り返る』を踏まえた発言だと思われる。同記事では、以下のような記載があった。
「2015年6月に公開された『チャンネル桜』の番組で、当時落選中だった杉田は、『生産性がない同性愛の人達に皆さんの税金を使って支援をする。どこにそういう大義名分があるんですか』などの発言を行った。現在この番組にも焦点があたっているが、このときのホスト役が中山恭子と、ほかならぬすぎやまだったのである。すぎやまは『男性からは言いにくいことをガンガン言っていただくのはありがたいですね』『正論ですよ』などと、番組内で杉田に好意的だった」
「チャンネル桜」での実際の発言内容とは?
当編集部は同記事中にあったインターネット放送局「日本文化チャンネル桜」の番組『日いづる国より』(2015年6月5日放送)の内容を確認した。出演者は現・衆議院議員の杉田水脈氏、すぎやま氏、中山恭子氏だ。該当する部分と思われる部分を発言ママで以下書き起こす。
杉田水脈氏(以下、杉田)「生産性がない同性愛の人達に皆さんの税金を使って支援をする。どこにそういう大義名分があるんですか、っていうことがまず一点なんですしね、男女平等も私はあり得ないと発言して、この時もだいぶ炎上したんですけども、差別じゃないんです。区別なんですね」
すぎやまこういち氏(以下、すぎやま)「区別、うん」
杉田「そこの部分を行動してはいけませんよ、ということが一点目です。日本というのは基本的人権が尊重されています。(中略)そのうえで、『女性の人権が』『子どもの人権が』とか『同性愛の人権が』というのを特別に支援するというのは特権になってしまう」
すぎやま「昔からの日本語でいうと、屋上屋を架すという、屋上にまた家を建てるみたいな話になりますよね」
(中略)
杉田「多感な思春期の時期に『女性が女性を好きになるのは、おかしくないですよ』『男性が男性を好きなのは、おかしくないですよ』『皆さんどうどうと胸を張って、そんなに縮こまらなくていいですよ。同性愛の人も胸を張ってましょう』という教育をしたら、どうなりますか。ちゃんと正常に戻っていける部分を、戻っていけなくなってしまいますよね」
(中略)
すぎやま「決定的なことは、同性愛から子どもは生まれません。これも大きいよね」
杉田「まったくその通りですね」
すぎやま「日本語には『かかあ天下』という言葉があるでしょう? 韓国にはないですよ。韓国は男尊女卑かもしれないけれど、日本という国はね『かかあ天下』という言葉があるし、一番大事なのは天照大御神じゃないですか」
すぎやま「天照大御神があって紫式部があって、日本の女性はすごいわ」
(中略)
すぎやま「性同一性障害は神経科が扱う問題なのか、ホルモン異常なのか、生理的なものなのか2種類あると思う。ぐしゃぐしゃに混ぜてしまうのは間違いだし、その狙いはなんなんだろう。奥に変な狙いがあるかもしれない」
杉田「先にお話をしたような『生産性』を口にすると、『じゃあ、あなたは子どもの生めない夫婦も生産性を認めないで差別するんですか』という反論がきたので、それもまた医療の分野で子どもの生めないご夫婦に対してもちゃんと支援をしていきましょうと(中略)、この問題とは分けて考える。まったく生産性のない人を差別してるのとは全然違って、ただ、差別と区別は違いますよと申し上げたいなと思っています。(中略)」
すぎやま「こういった問題に対して、杉田水脈さんががんがん発言してブログが何度も炎上するように書いてください」
杉田「女性政治家がやるべきこと。行き過ぎた男女平等とかジェンダーフリーに対して、物申すのは、男性が言えませんから。このLGBTの問題も、どちらかというと女性のほうが賛成する方が多いですから、『いやいや、そうじゃない、女性の立場でこれはダメですよ』といっていけるようなかたちで活動していきたいと思っています」
すぎやま「男性からは言いにくいことをがんがん言っていただくのは、ありがたいですね。女性の発言というのは、日本国にとってとても大事なことで、杉田先生、中山先生の発言は我々男性は言いにくいことを言ってくださるのは助かりますわ」
中山恭子氏(以下、中山)「杉田さんが言ってることって非常にまともですよね」
すぎやま「正論ですよ」
中山「普通の社会で、そこには家族があって、一人ずつが機械みたいにバランバラにいるというのは社会が成り立たないですしね」
すぎやま「不幸せだよ、それは」
野党内はすぎやま氏の過去の主張に懸念す声も
すぎやま氏が杉田氏の全発言を「正論だ」と感じたのか、それとも一部の主張に賛同したのかは定かではないが、「文春」報道の通り「番組内で杉田に好意的だった」という記述は間違いではないだろう。
五輪の開会式のメーンスタッフをめぐっては「障害者の同級生をいじめた告白記事」でオープニング楽曲の担当者の小山田圭吾氏が辞任。過去にユダヤ人大量虐殺(ホロコースト)をネタにした過去のコントの動画が拡散され、ショーの演出担当だった小林賢太郎氏が解任されている。人種、性別、国籍などの”多様性”に対する差別に関する発言は五輪憲章に抵触すると見なされるのが、現在の状況だ。
立憲民主党衆議院議員秘書は次のように語る。
「すぎやま氏は小山田氏や小林氏のような開会式のメーンスタッフではありません。また『ドラクエの楽曲と作曲者個人の主張は切り離してみるべき』という意見もあるとは思います。しかし、ここまで開会式運営陣の不適切な“身上”が明らかになれば、もう止まりません。開会式は世界的にも注目されている危機的な状況です。組織委(東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会)や政府の責任は少なからず問われるべきでしょう。党内でも尾辻先生の投稿を皮切りに、すぎやま氏の過去の主張に対し懸念の声が上がり始めています。
加えてTwitter上などインターネット上では、五輪に否定的なユーザーが“新たな燃料投下”を待っている雰囲気が漂っています。日刊スポーツの報道のようにドラクエの曲がダミーで、後日、”開会式当日まで、そんな騒動もあったね”となれば良いのですが」
ドラクエは流れるのか、流れないのか。開会式は本日午後8時からだ。
(文=編集部)