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長谷十三「言わぬが花、をあえて言う。」

テレビ朝日「不安煽り報道」の犠牲者…ワイドショー鉄壁の強さで視聴率3冠の罪

文=長谷十三
テレビ朝日「不安煽り報道」の犠牲者…ワイドショー鉄壁の強さで視聴率3冠の罪の画像1
テレビ朝日本社(「Wikipedia」より)

 テレビ朝日が初の「民放3冠」に輝いた。4月4日、2021年度の平均世帯視聴率で「全日」「ゴールデン」「プライム」のすべてで初めて民放キー局の首位になったと発表したのである。

 これに大きく貢献しているのが、圧倒的な強さを誇るワイドショーだ。『羽鳥慎一モーニングショー』は個人全体で歴代最高視聴率をマークして、同時間帯で6年連続民放トップ、『大下容子ワイド!スクランブル』も8年連続トップを達成している。

 なぜこんなにテレ朝のワイドショーは数字(視聴率)が取れるのか。羽鳥・大下両キャスターやコメンテーターの好感度などもさることながら、ライバル局が指摘するのは、「不安を煽るうまさ」だという。

「ワイドショーはニュースと違って正確な情報を伝えることより、喜怒哀楽を刺激することが求められますが、テレ朝の場合はそのなかでも視聴者の恐怖心や不安を刺激するのがうまい。コメンテーターや専門家のキャラクターを生かして、いかに恐ろしいことが起きているかということを煽り気味に語らせる。他局も似たことをやっていますが、やはりテレ朝がピカイチです」(民放情報番組ディレクター)

 その最たるものが「コロナ報道」だという。一般社団法人「放送法遵守を求める視聴者の会」が『モーニングショー』が20年3月16~20日に放映した内容を調べたところ、PCR検査に関する報道時間のうちなんと39%が「全員検査せよ」という主張に割かれていた。それは裏を返せば、報道の4割が「検査をしないと死者が溢れかえるぞ」という恐怖訴求に費やされていたということでもある。

「当時、岡江久美子さんがコロナに感染し亡くなるとテレビクルーが自宅へ押しかけて大騒ぎしていたことからもわかるように、テレビの世界ではコロナの恐怖を煽れば煽るほど数字が取れるという現実がありました。それを最も戦略的にうまくやっていたのが『モーニングショー』。コメンテーターの玉川徹氏や“コロナの女王”と呼ばれた岡田晴恵氏などコロナの恐怖を煽る“名人”が揃っていましたからね」(前出ディレクター)

テレ朝の伝統

 恐怖を煽って数字を稼ぐ――。一般の視聴者からすれば陰謀論の類のように聞こえるかもしれないが、テレ朝のなかでは、わりと日常的に語られるスキームだ。報道や情報番組に10年近く関わってきた元テレ朝社員が言う。

「テレビというのは大きな火災や台風の映像を入れると視聴率がポンと上がるんですね。だから、番組と番組の間に流れるスポットニュースに火災や台風の映像は意識して入れています。勢いよく建物が燃えているような映像を見ると、人はどうしても不安や恐怖を感じるので画面に釘付けになります。だから次の番組までチャンネルを変えない。新人の時は、都内のどこかで火事があると『すぐ撮ってこい!』と言われました」

 つまり、恐怖や不安を煽る番組づくりは、テレ朝内で脈々と受け継がれている「伝統」であり、それが今の「数字の取れるワイドショー」を生み出した可能性があるのだ。

「コロナ」の次は「ロシア」

 そんなテレ朝のワイドショーが「コロナ」に代わって今、最も力を入れているテーマが、「ロシア」である。かつてのコロナ報道と同じように、番組内でたっぷりと時間を割いて、ロシアがいかに残虐な国でプーチン大統領が正気を見失っているかということを紹介して、コメンテーターや専門家が視聴者の恐怖や不安を煽っている。

 これは「ウクライナのため」というよりも、「コロナよりもリスクなく数字が取れる」ということが大きいというのは前出ディレクターである。

「ロシアに関しては、厳しく批判をしていれば何を言っても許されます。コロナの場合、あまりいい加減なことを言うと、すぐに政府や医師・研究者からクレームが入ります。しかし、ロシアについては根拠のない噂話のような話を紹介しても誰も文句を言いません。リスクも責任を取ることもなく思う存分、恐怖や不安を煽ることができる。ワイドショーにとってこんなありがたいネタはない」

 そんなワイドショーの「言いっぱなし」を象徴するのが、4月6日放送の『モーニングショー』である。この日、ロシア軍が撤退したキーウで、民間人と見られる遺体が多数確認されたという海外ニュースを受けて、スタジオは「人間のやることではない」「許せない」など大盛り上がりをした。そして、極めつけに国際政治が専門の慶應義塾大学教授・廣瀬陽子氏がこんなことを言った。

「集団墓地のような形で、例えば教会などに大量の遺体が葬られていたということも聞かれていますし、あちこちに遺体がある程度まとめられたところで、生焼けの状態で発見されていると。おそらく証拠隠滅のために焼こうとしたんですけど、焼き切れなくて残ってしまっているということがあると思います」

 SNSでは、この「生焼け」という表現に気分が悪いという批判が相次いだ。また、「ロシア軍を擁護するつもりはないが、伝聞だけで断定をするようなもの言いに違和感を覚える」という意見もあった。しかし、このように大きな話題になっている時点で、「数字が取れている」ということなので、番組的には大成功ということだ。

 このテレ朝ワイドショーを真似て各局は、競い合うようにロシアの残虐ネタ、ロシアの非常識ぶりを取り上げる。ロシアの悪口ならば、多少いい加減なことを言っても許される風潮もある。コメンテーターたちも、「こんなことをして同じ人間とは思えない」「ロシアの人々はこれがおかしいと思わないのか」などと視聴者の胸がスッとするようなロシア批判を繰り返している。

 テレビ局は、誰からもクレームがこない、誰にも迷惑をかけていないということで、「ロシア」を人類の敵として叩いているが、実は「報道被害」を受けている人たちがいる。

 在日ロシア人だ。今、日本で暮らしているロシア人は凄まじい嫌がらせを受けていて、SNSでは「国へ帰れ」「人殺し」など誹謗中傷に晒されており、なかには「夜道に気をつけろ」などと脅迫まがいの言葉を投げかけられている人もいる。

 ワイドショーの度を越した「コロナ恐怖報道」が、全国各地で医療従事者やコロナ患者を迫害するような「コロナ差別」を招いたように、度を越した「ロシア恐怖報道」が、在日ロシア人ヘイトを招いているのだ。

 年間視聴率トップという企業営利のため、差別と対立を煽っているテレ朝ワイドショーの罪は重い。
(文=長谷十三)

長谷十三

長谷十三

フリーライター。政治・経済・企業・社会・メディアなど幅広い分野において取材・執筆活動を展開。

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