今、「地盤」への関心が高まりつつある。昨年9月に発生した北海道胆振東部地震では札幌市の一部で液状化現象による地盤沈下が発生したが、過去の大地震でも同様の事態が起きている。地震大国に住んでいる以上、特に住宅選びの際は地盤を確認することも大切になってくる。
地盤ネットホールディングスでは、独自に算出した「地盤安心スコア」の集計により、東京都区市町村(島しょ部を除く)の「いい地盤」ランキングを公表した。ベスト3を見ると、1位は国分寺市(86.68点)、2位は西多摩郡瑞穂町(86.33点)、3位は小平市(86.05点)。ワースト3は、53位が江東区(43.82点)、52位が中央区(44.98点)、51位が墨田区(45.66点)となっている。23区のベスト3は、1位が練馬区(80.59点/東京都16位)、2位が杉並区(77.32点/東京都23位)、3位が豊島区(74.90点/東京都28位)という結果だった。
高スコアの地域は、いずれも起伏の少ない武蔵野台地に位置している点が関係している。一方、タワーマンションが乱立する豊洲地区を抱える江東区がもっともリスクが高いという皮肉な結果になった。この結果を踏まえて、地盤ネットホールディングスの山本強代表取締役に話を聞いた。
液状化の危険度が高い場所とは
――今の不動産の実勢価格について、どう見ていますか。
山本強氏(以下、山本) 今は地盤が悪い土地で不動産開発が進み、人気になっている一方で、地盤の良い土地が放置されて価格が下がっています。まれに見る状況で、あまり好ましくありません。
東日本大震災では千葉県浦安市で液状化現象が発生しましたが、浦安は高度成長期に海を浚渫して埋め立てられました。しかし、頑丈に締め固めたわけではないため、震災時には大規模な液状化が発生してしまったのです。同じく千葉の我孫子市では布佐地区で液状化が起きましたが、同地はもともと沼地でした。北海道胆振東部地震で液状化が発生した札幌市清田区里塚は、谷を埋めた土地です。
これらの例からもわかるように、液状化の危険が高いのは、もともと海、河、沼だった場所です。また、一般的に高台は地盤が良く、谷地は地盤が弱いとされています。地盤の良し悪しは自分の財産や家族を守るための重要なポイントになるため、今後はより一層意識すべきでしょう。
――昨年12月、住宅ローン専門金融機関のアルヒが「本当に住みやすい街大賞2019」を発表し、赤羽が1位に輝きました。2位以下は、南阿佐ヶ谷、日暮里、川口、柏の葉キャンパス、勝どき、南千住、千葉ニュータウン、小岩、矢向という結果です。
山本 いずれも不動産価格がお手頃のエリアですが、地盤の面で見れば、合格といえるのは南阿佐ヶ谷と柏の葉キャンパスのみ。必ずしもデベロッパーやマスコミが人気を煽るエリアの地盤が良いとは限りません。そのため、人気の街でも災害時には液状化現象などの悲劇が起きる可能性はあります。
また、南阿佐ヶ谷などを除き、もともと住宅地ではなかった地域も多いため、地盤の安全性という観点から見ると疑問符がつく場所もあります。柏の葉キャンパスにしても、以前に土壌汚染の問題がありました。新興住宅地は“ワケあり”の土地であることも多く、地盤が悪いケースも少なくありません。
人気の新興開発地に潜む落とし穴
――東京23区で地盤が弱い地域はどこでしょうか。
山本 江東区、中央区、墨田区、荒川区、江戸川区、台東区、足立区、葛飾区の順番で地盤が悪いです。特に江東区の豊洲、中央区の月島、江戸川区の葛西など湾岸部は危険度が高いです。一般的に城東地区は地盤リスクが大きいのですが、不動産価格は上昇傾向にあり、地盤の良し悪しと不動産の実勢価格がリンクしていないことが問題です。
また、新興開発地が多いですが、「新しく開発された地域はいい地域だ」という思考を変える必要があります。古くから人が住んでいる地域のほうが地盤は良いのです。ただ、人が新しい土地に引き寄せられていく気持ちもわかります。住宅を購入する世代は主に30~40代ですが、開発されたばかりなので“よそ者感”が少ないことも理由のひとつでしょう。
ちなみに、私はマイホームを購入する際に、縄文時代には貝塚、江戸時代には武家屋敷があった土地を選びました。数千年前からの高台で、400年前から宅地利用されていた場所です。地盤調査専門会社の社長が地盤リスクの高い土地に住んでいては話になりませんし、家族と住宅の資産価値を守るための選択です。
――逆に、都内で地盤が良いのはどこでしょうか。
山本 良い順に、国分寺市、西多摩郡瑞穂町、小平市、小金井市、立川市、武蔵野市、西東京市、清瀬市、武蔵村山市、東久留米市となります。いずれも武蔵野台地に位置している点が大きいです。23区では、練馬区、杉並区、豊島区がトップ3ですが、東京全体のなかで見ればさほど高くはありません。これらの地域であっても、人工造成地や田んぼ、谷や川沿いは避けるべきでしょう。
弊社では、都内の各自治体別に、緑(80点以上、安全)、黄(55点以上、普通)、赤(55点未満、注意)に区分した地図も公表しています。
東日本大震災の発生後、同じ都内でも地盤の悪いところから良いところに引っ越した人もいます。今後、不動産の購入などの際に地盤リスクを考慮することは大切です。
――地盤の見極めについて、我々ができることはありますか。
山本 昨年は災害が多く、「今年の漢字2018」には「災」が選ばれました。今年も、過去に関東大震災(1923)、阪神・淡路大震災(1995)などが発生した亥年ですから、油断はできません。まず、地盤のスコアに関心を持つことが大切です。弊社グループが提供している「じぶんの地盤アプリ」では、現在地の地盤リスクの目安を100点満点ですぐに知ることができます。
地盤の調査で重要なのは「建物の重さに対する地盤の強さ」「液状化」「揺れ」に関するデータですが、この3つの調査メニューを提供しているのは弊社だけです。国立研究開発法人防災科学技術研究所および白山工業との三者共同研究では、日本初の微動探査システム「地震eye」を開発し、実用化しています。これは、地盤の揺れやすさを測定することで住宅地の安全度を知り、対策につなげるというものです。地盤の揺れを“見える化”することによって、これからの地震対策の新常識として根付いていくことを期待しています。
弊社の企業理念は「幸せは、JIBANの上に築かれる」というものです。今後も、地盤に関するさまざまな調査を通じて、人々の幸せを創出していきたいと思います。区や駅をまたがなくても、同じ学区内でも地盤状況は細かく変わるので、安全な場所を調べて災害が起きる前に大急ぎで移住しましょう!
(構成=長井雄一朗/ライター)